及川なりの。


「お待たせ灯ちゃん。」

「及川っ……!」

病院の待合室。
及川の付き添いでやって来て、ここで戻ってくるのを待っていた。

「足、大丈夫だった?」

「うん。
軽い捻挫だった。
運動しても大丈夫だってさ。」

「そう、よかった。」

一先ず安心した。

昨日の朝練時、及川は足の不調を訴えた。
その時テーピングとアイシングで対応したけれど、その後は念のため病院で診てもらうことになった。

「じゃあ私、外で監督に連絡してくるから。
終わったら外来てね。」

「わかった。
ありがとね。」


私は病院の外に出る。

「……ふぅ…。」

無意識的に、大きく息を吐いた。
及川の近くは息苦しい。
理由はわかっていた。
もちろん悪いのは及川ではない。
ベニーランドでのあの光景。
二口と、手をつないでいた彼女。
もちろん二口だって悪くない。

悪いのは、私。

と、いうか、私が勝手に凹んでいるだけだ。

監督に電話をかければ、すぐに出た。
もう練習試合は始まっているらしく、なるべく早く戻ってこい。とのこと。

「灯ちゃんお待たせー。」

電話を切った頃、ちょうど外に出てきた及川。

「もう練習試合始まってるって。
だから早く帰ってこいってさ。」

「はいはーい。」

病院前のバス停でバスを待つ。
バスは5分もしないうちにやって来て、それに乗り込む。
もうすぐ目的地につくかなってところで、及川に話しかけられた。

「そういえばさ」

「何?」


「灯ちゃん、二口クンと連絡取ってるンだって?」


「…え?」

ニヤッと笑う及川。

「何で知ってるのか、って顔してるね。」

「な、何で…?」

及川には二口のこと言っていない。
伊達工に行った時、確かに名前は聞いた。
でもそれだけだし、何で?
及川は、笑っていた。


「俺が灯ちゃんのことで知らないことなんて…ないからね。」


ゾクッ……。

口元は笑っているけど、目は笑っていない。
怖い。

「あ、着いたよ灯ちゃん。
行こ。」

「あ…うん…。」

及川のあとについて、バスを降りる。
そこは学校の最寄駅。
いつもよりちょっと、及川の後ろを歩く。

「……さっきの話し嘘だからそんなに怖がらないでよ。」

「う、嘘?」

「うん、嘘。
二口のことはマッキーが教えてくれた。」

「花巻が?」

確かに花巻には何でも相談してるから、私のこと1番知ってるのは花巻だと思う。
ケド

「なんで花巻が及川に教えたの…?」

場合によっては花巻に相談するのも考え直さなければならないかもしれない。


「灯ちゃん、元気なかったから。」


「え?」

どういうことだろう。

「…だからサ、ベニーランド行ってから元気無かったデショ?」

「………。」

「……気になったんだよ。」

及川を見上げる。
横顔しか見えなかったけど、口をとんがらせていた。

「ごめんね。
心配かけちゃって。」

「……別に、そんなんじゃないよ。
悔しかっただけだし。」

「悔しい?」

「一緒に居たのは俺なのに、灯ちゃんが見てたのはあいつってことでしょ?
それって悔しくない?」

「…どういうこと?」

はぁ…とため息を吐く及川。

「何そのため息…。」

「灯ちゃんさ、本気で言ってるの?」

「?」

「………灯ちゃんって、鈍感って言葉じゃ言い表せないくらい鈍感だよね。」

「バカにしてるの?」

「なんでそういう事だけ敏感なの!?
いや別にバカにしてないケドね!?」

「ぷ…必死だね、及川。」

思わず笑ってしまった。
必死な姿がおかしい。


「やっと笑った。」


さっきまでのアワアワした及川とは打って変わり、ふんわり笑っていた。
ああ…私のこと、元気付けてくれようとしてたんだ。

「…ありがとね、及川。」

「いーえ。」

そう言ってピースをした及川。
私たちはもう、体育館の前まで来ていた。

「みんな頑張ってるかなー。」

「どうだろうね。」

及川は体育館のドアに、手を掛けた。




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