プロジェクションマッピングの時期とは。

「プロジェクションマッピング?」


「そ。
ベニーランドでやるんだってさ。」

日曜の朝、ご飯を食べているとお兄ちゃんが起きて来た。
お兄ちゃんは何か引っ越したアパートで不都合があったらしく、家に泊まっていた。
パジャマにしてるTシャツのど真ん中にはライオンのプリント……結局買ったんだね。
そして私の顔を見るなり、チケットを2枚見せてきた。

「こんな時期にプロジェクションマッピングやるの?
こういうのって冬やるもんだと思ってた。」

「俺も。」

「てゆうか、このチケットどうしたの?」

「同僚に貰った。
彼女と行けば?って。」

「ふぅん。
彼女と行けば?」

ビシッとデコピンされた。

「った。」

いった。
何これすごく痛い。

「社会人はそんなホイホイ遊びに行けないんだよ。」

「…そう。」

おでこを摩る。
よっぽど彼女さんに会えてないんだろうな。
でもだからってこんな勢いよくデコピンしなくてもいいんじゃないかな。
妹に当たらないでほしい。
すると、お兄ちゃんはそのチケットを私に差し出した。

「だからお前にやるよ。」

「え?いいの?」

「おう。」

チケットを受け取る。
チケットに書き込まれた日付を見るとびっくりした。


「ちょっと待って今日じゃん!」


「そうだよ。」

いやいや、そうだよ。じゃないから。

「くれるならもっと早く渡してよ。」

「俺も貰ったの一昨日くらいなんだよ。」

「…そう。」

もう1度チケットを見る。
日付はやっぱり今日。
使える時間は今日の夜からだった。
部活終わりに軽くご飯を食べた後の、ちょうどいいくらいの時間。

……二口でも誘ってみようかな。


「及川くん誘って行って来なよ。」

「…はぁ?」

お兄ちゃんはそう言うと、ニヤッと笑った。

「及川くんと付き合ってるんじゃないの?」

「付き合ってないよ。」

「じゃあ…なんだっけ?花丸くん?」

ハナマルクン……?
そんなお笑い芸人みたいな名前の友達なんていな…

「あ、花巻?」

「そう、花巻くん。
花巻くんは?」

「花巻?
……うーん……甘いもの以外興味あるのかな…?
あ、でも結構服とか好きみたいだから好きかも、こういうの。」

「じゃあ花巻くん誘えば?」

「花巻か…。」

花巻と見に行くのも楽しそうだな、なんて思いつつ、何故か頭をちらつく二口の顔。
……やっぱり、二口を先に誘ってみようかな。


「まぁ、男と一緒に行く必要はないけどな。」


………あ。

「夜久ちゃんだっけ?
仲良い子。」

そうだよ、夜久ちゃん誘ったらいいのに。

なんで…二口が最初に思い浮かんだんだろう……?
……いやいやいや、別にそういうんじゃなくて……


「……ほら、アレだよ…アレのお礼にね……。」

「?
なんのお礼?」

お兄ちゃんは首を傾げる。

「独り言でーす。」

そう、二口には一緒にケーキバイキングに付き合ってもらったんだ。
いくら誘ってくれたのは向こうとはいえ、ちょっと無理させてしまった節がある。
うん、そう、そのお詫び。
お礼っていうかお詫び、それ。

だから二口のことが最初に浮かんだんだ。
罪悪感みたいな?
そうそうそれそれ。

そんなことを思いつつ、二口にLINEを送った。
『今日の夜空いてる?』
みたいな感じで。

その後時間になって家を出た。
自転車で最寄駅まで行き、ホームで電車を待つ。
その間にスマホを見ると、LINEから通知が2件。
それを見て、自分の心臓が跳ねた。
何故か。

LINEを開く。
二口堅治の名前のところにAと数字が出ていて、そこをタップする。
二口からの返事は

『すみません、用事があって。』

という簡素な文と、謝っている可愛らしいスタンプ。
……残念。
ハァと、ため息がこぼれた。

『分かった。ごめんね。』

そう返信する。
その後すぐに電車が来て乗り込めば、いつもの場所に花巻。

「おはよー、花巻。」

「オハヨー。」

いつも通り挨拶を交わす。
せっかく会ったし、花巻にも聞いてみることにした。

「花巻さ、今晩暇?」

突然だから、びっくりしたみたいな花巻。

「今晩?
ウーン……ちょっと厳しい。
なんで?」

「うちのお兄ちゃんがチケットくれたの。
今朝。」

花巻にそのチケットを見せる。
そしてケラケラ笑う花巻。

「今日のチケット今朝渡されるってすごい。」

「デショ?
そしたらお兄ちゃんも一昨日くらいに渡されたんだってさ。
でもそれにしたって昨日の夜にでも渡してくれればいいのにね?」

「そーダネ。」

さて、どうしたものか。
とりあえず学校に行けば夜久ちゃんいるから誘ってみよう。


「……二口は?」


向かいに立ってる花巻を見る。
意外だった。
花巻の口から二口の名前が出たことが。

「二口は今日…用事あるみたいで…。」

思わず、素直に答えてしまった。
もちろん隠すようなことでもないけれど。

「ふぅん。
ってことは俺、2番目なんだ?」

ニヤニヤと笑う花巻。

「あ、あのね、それには訳があって…!」

花巻が気を悪くしたんじゃないかと思って、事のあらましを説明した。
ケーキバイキングのこととか。

「じゃあ二口、あんまりケーキとか好きじゃなかったんだ?」

「そうみたい…。
だからちょっと申し訳なくて。」

「へー。
無理しても行きたかったんだ。」

「?
どういうこと?」

「何でもない。」

「?」

結局今日、二口にお詫びできない。
だからまた日を改めて何かお返ししないと。

「ま、とりあえず二口のことは置いておいてさ、俺もダメだと誰誘うの?」

「うん、夜久ちゃんに声かけようかと思って。」

「え?俺夜久より先に声かけられたの?
ヤッタネ。」

「会う順番でこうなっちゃっただけだから!」

ケラケラと花巻に笑われる。
高校の最寄駅に着き改札を出ると、岩泉と及川。
松川はチャリ通だから、学校に直接行っている。
4人で学校まで歩いていく。
さすがにこの中で誰か1人を誘うなんてことは出来ない。
まあみんなで行って買ったチケット分は割り勘したらいいんだけどね。

学校に着いたら先ず、部室を開ける。
そしてその隙に、私は女バレが使っている隣の体育館へ向かった。

「夜久ちゃん!」

「おー月島。
おはよー。」

「おはよ!
今日も夜久ちゃんかわいいね!」

「月島の方がかわいいよ。」

「夜久ちゃん………!!」

夜久ちゃんを撫で回す。
超かわいい。
体育館の入り口近くにいた夜久ちゃん。
何かを書いていた。

「今日他校と練習試合でもするの?」

「ん?あ、これ?
ううん。
今日は新入生歓迎試合?みたいな。
新入生中心でチーム組んで試合すんの。
それて部活の後は親睦会。」

「あ、そうなんだ。」

親睦会ってことは、誘えないか。

「どうしたの?」

「……ううん、なんでもないの。
私とも親睦会してよ夜久ちゃん!」

「今更何を親睦するの。」

あはは、なんて笑いあう。

「じゃあまたね夜久ちゃん!
白井と入江にもよろしく!」

「うん!またね!」

私は更衣室で着替えを終えると、体育館へ向かう。

「月島先輩っ!
これ、どうしたらいいですか?」

「それは洗濯しちゃっていいよ。
洗濯カゴに入れといてもらっていい?」

「わかりました!」

新入生が入ったのは選手だけじゃない。
なんと、マネージャーも1年生が入ってきてくれた。
しかもキャーオイカワサーン!じゃない子。
本当嬉しかったし安心した。
よかった。










「灯ちゃんお疲れ様。」

部活が終わり、着替え終わった及川がやってきた。
いつものことだけど。

「及川もお疲れ様。」

「ありがとー。」

相変わらずニコニコと笑顔を貼り付けてる及川。

「日誌さ、いつまで灯ちゃんが書くの?」

「来月くらいかな。
そのくらいには1年生に教えなきゃだよね。」

「うん、そうだね。」

やっぱり、1年生が書くようになってもこの男はこうやって邪魔するのだろうか。


「……もしマネージャーの1年生に手ぇ出したら……わかってるね?」


「そのハッキリ言わない感じ、怖いね。」

とりあえず及川を無視して日誌を書く。
日誌はもう少しで終わる。
そしたら……どうしよう。
結局一緒に行く相手は見つからなかった。

『及川くん誘って行って来なよ。』

……………。
お兄ちゃんの言葉を思い出してしまった。

「……及川さ、」

「うん?」

「学年末テスト、何位だったんだっけ?」

及川はテストの前言った。
10位以内なら髪型とメイクをあの日みたいにして欲しい、って。
それで5位以内なら…


「4位だったよ!」


ピースをしながらニッと笑う及川。
まるでそれが幼い子供みたいな表情で、笑ってしまった。

「なぁに?灯ちゃん。
もしかして俺とデートしてくれんの?」

今度は悪戯っ子みたいにニヤニヤと笑う。


「いいよ。」


「………え?」


ニヤニヤしてた顔が、一気に真顔になった。
口も半開き。
正直、こんなに面白い及川の顔を見たのは初めてで、噴き出してしまった。

「ほ!本当に!!?」

バンッと机を叩く及川。
その顔はバレーをしてる時みたいに真剣だった。
いつも貼り付けてる笑顔なんかより、よっぽどかっこいいと思う。

「うん。」

パァァと笑顔になる及川。
……確かにこの顔も可愛いかもしれない。
なんか犬みたいで。

「いつにする?」

「今日。」

「うん、わかっ…え、今日?」

また及川が口半開きで真顔になる。
本当面白い。

「今晩ね、ベニーランドでプロジェクションマッピングがあるんだって。
うちのお兄ちゃんからチケット貰ったの。」

今日1日持っていたチケットを及川に見せる。

「へー!知らなかった!」

「私も全然知らなかった。
……で、どうかな?
行ける?」

私が聞くと、コクコクと頷く及川。


「行く!行く行く!!」


「そ。よかった。」

とりあえず、及川は何人目に声かけたかってことは黙っておこう。

「じゃあ日誌書いちゃうから大人しく待っててね。」

「うん!」

及川は本当に静かにしていた。
おかげでさっさと終わらせることができた。



「終わった?」

「うん。お待たせ。」

「じゃあチケットの時間までまだあるし、ご飯でも食べに行く?」

「そうだね。
他のみんなは?」

「先帰ってもらった。
岩ちゃんにメールしたら上手いことやってくれるって言ってたから。」

「そう。
岩泉に今度お礼言っとこう。」

「そうだね!」

及川はニコニコ笑う。

「……嬉しそうだね。」

「そりゃそうだよ。
だって灯ちゃんがやっとデレてくれたんだもん。」

「………。」

「ちょっと灯ちゃん!
変な顔しないで!!」

変な顔なんてしてないと思うけど……。

……どうしよう。
ちょっとめんどくさくなってきた……。


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