カワイイは作れる。


「花巻おはよー」

電車に乗ってきた月島。

「今日の化粧濃くない?」

「エッ……。」

つい、思った事が口に出てしまった。

「へ、変かな…?」

アワアワとする月島。

「?変じゃないよ?」

もしかしたら貶したみたいに聞こえてしまったのかもしれない。

「ほんと?
よかった。」

「うん。かわいいヨ。」

「お世辞なんて言わなくていいよ。」

照れたように笑う月島。
いつもは化粧の薄い月島。
ナチュラルないつものメイクもいいけど、いつもよりもちょっと外行きなメイクもとても似合っている。
それに

「お世辞じゃないよ。
髪も今日は気合いはいってるネ。」

いつもポニーテールとか綺麗に纏めているけれど、今日は時間がかかるだろう髪型をしている。

「あ、わかる?
いつもより30分早く起きてセットしたの。」

「髪型もイイね。
どこか行くの?」

純粋にかわいいと思った。
と、同時に、気になったのはそうした動機。
それを聞けば、ニコニコと笑う。

「うん!
学校終わりにケーキバイキング行くんだ!」

「ケーキバイキング……?
すっげぇ羨ましいんだけど。
夜久達と?」

行きたかったケーキバイキング。
月島と行く予定を立てていたけれど、結局予定が合わなかった。

いつもの女子メンツでいくのだろうか?


「ううん。二口。」


そう言われた瞬間、最初誰だかわからなかった。

「…二口?
二口って伊達工の?」

「うん!
この前あの後ご飯行ったんだけど、その時にケーキバイキング行こうってことになったんだ。」

なんというか、意外だった。
月島はモテる。
だからしょっちゅう告白もされてるみたいだし、月島の事が好きな奴も何人か知ってる。
でも、一緒に遊ぼうという誘いに乗ったという話は聞いたことがないし、本人から聞いたこともない。

「ふーん。」

意外な上に、男と遊びに行くことをこんなにも楽しそうにしている月島をみるのは、なんとなく嫌だった。
俺、ちっちぇーな。

「ご、ごめん花巻。」

「はぇ?」

何故か月島に謝られた。
気を遣わせてしまっただろうか。


「花巻もケーキバイキング行きたかったよね!
今度一緒に行こうね!」


これまた意外な答えが返ってきた。


「……ブハッ!」


「…え……。」

的外れで思わず笑ってしまう。
月島はこれっぽっちも思ってないんだな。

俺が月島のこと好きだって。


「お前はさ、本当かわいいよネ。」


「は…はい?」

ポカンとする月島。

「二口と付き合ってるの?」


「え!?
付き合っ…!?
付き合ってないよ!!」

「だーよね。」

なんとなくわかっていたけど、あえて聞いてみた。
聞いてよかった。
これを聞いて、少し安心した。

「二口と初めて話したの、つい最近でしょ?」

「そ、そうだよ!」

「でも今日デートするんデショ?」

「デー…ト……。」

すこし月島の頬が赤く染まった。

「ど、どうしよう…!」

「どうしようって…。
その為に粧し込んで来たんじゃないの?」

「そ、そうなんだけど…!」

頬を赤くし、そんな風にする月島が可愛らしい。
話したことがないから確信は持てないけれど、多分二口は月島のことが好きだ。

悔しいけど、月島も。

「な、なに笑ってんの!」

「ん?
いーや。
二口もやるなーと思って。」

「?
どういうこと?」

「教えない。」

「なんでよ…。」

拗ねる月島。


「好きだ。」


ボソッと呟いてみる。
月島には聞こえないように。

「今何か言った?」

「んーん。
なんでもないよ。」

首を傾げる月島。
ほぼ同時くらいに学校付近の駅に着き、月島と一緒に電車を降りる。

「あ、そういえばさ。」

「うん、何?」

月島のいつもより大きな目が俺を映す。
そこには俺しかいないという、ちょっとした優越感。


「デートのこと、及川には言わない方がいいヨ。」


あいつ、月島のことになると煩いから。

「うん。
もちろんそのつもりだよ。」

まあ、そりゃそうか。

「そうだよネ。
いつも思うけどサ、なんで月島って及川にはそんな手厳しいの?」

「………わかんない。」

ちょっとだけ中学時代の時のことを聞いたことがある。
もしかしたら、それも関係しているのかもしれない。

「ごめん、変なこと聞いて。」

「ううん。大丈夫。」

「……俺にもさ、」

「うん?」


「ワンチャンあるかな?」


及川がずっと月島のことが好きなのは知っていた。
及川が相手なら、自分は身を引くしかないだろうと思っていた。
及川なら月島の隣にいてもいいと思ったし、譲ってもいいと思った。

でも、二口には渡したくない。

いくら月島が二口のことが気になっているとしても。

「何の?」

やっぱり、月島はわかってない。

「なんでもないヨ。」

月島はまた首を傾げる。
改札を出ると、そこには及川と岩泉。

「うわ!
灯ちゃんどうしたの!
今日すごいかわいいね!!」

やっぱり煩い及川と、ちょっと困ってる月島。

この化粧も
この髪型も

俺の為にしてくれたらいいのに。



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