月島さん家の上の子と真ん中っ子。

「………それは違くない?」

「え?そうかな?」

「私はこっちがいいと思う。」

「じゃあそっちにするよ。」

「え、完全に私好みだけどいいの?」

「いいよ。」

「……そう。」

無事に学年末テストも終わり、春休みに入った。
部活がOFFの今日、今春から社会人になるお兄ちゃんの買い物に付き合っている。

「あのさ、1着もお兄ちゃんセレクトのものないよ?
お兄ちゃんは好みのものとかないの?」

「あー……じゃあこれとか。」

お兄ちゃんは1着のTシャツを私に見せる。

「だめ、ダサい。」

「………そうか。」

お兄ちゃんは服を戻す。
結局お兄ちゃんは趣味が良くない。
そりゃ言葉だけで言ったら私が悪者みたいだけど、こんなライオン(しかもリアルな写真みたいな絵)が真ん中にドーンと描かれた服をチョイスされたら誰だってダメ!って言いたくなる。
お兄ちゃんのお嫁さんになる人は大変だろうな。
……でもセンスが合う女の人がお嫁さんになるのかな、どうしよう。

「お兄ちゃんさ、ちゃんと止めてくれる人をお嫁さんにしなね。」

「?」

「ううん、なんでもない。」

「じゃあこれ買ってくるから。」

「うん。」

私はお兄ちゃんがレジに行くのに付いて行った。
特に紳士服売場で見るものもない。

「ありがと、灯。
付き合ってくれて。」

「んーん。
全然いいよ。
春休みだし、部活もなくて暇だったし。」

「でも貴重な休みなわけじゃん?
あ、じゃあ何か欲しいものあれば買ってやるよ。」

「エ!?
なんでもいいの!?」

「……いや、ある程度の値段に抑えてくれれば。」

「……わかってるよ。」

実は少し前から欲しいものがあった。
そのお店に行くため、洋服売場から離れる。
そこから出ると、春休みのせいもあるのかすごい人混みだった。
気を付けないと逸れてしまいそうだ。
お兄ちゃん、ぼんやりしてるし。

「灯。」

そんなお兄ちゃんから声をかけられ、振り返る。


「はい、手。」


すると、手を差し出された。

「……私のこと、何歳だと思ってるの?」

「?
17歳だろ?」

「……そうだよ。」

お兄ちゃんは私が言わんとしていることを全く理解していない。
諦めて私はお兄ちゃんと手を繋ぐ。

お兄ちゃんの手は、大きくて温かい。
安心する手。

気恥ずかしさもあったけれど、それは安心と懐かしさで気にならなくなった。



「あ、お兄ちゃん、これ。」

私はお兄ちゃんを連れて、雑貨や色々な物が売っているお店にやってきた。
私の目の前にあるのはヘッドホン。
女の子が使うにしては大きめでゴツいデザイン。
でも私はそこが気に入っていた。

「これが欲しいの?」

「うん。」

「わかった、いいよ。
どの色?」

「これ。」

「じゃあ買お。」

それをお兄ちゃんは取ると、レジへ持っていく。
反対の手ではまだ、私と手を繋いでいる。

「いらっしゃいませ。」

「これください。」

「はい。
プレゼントですか?」

店員の可愛いいお姉さんはお兄ちゃんの顔を見た後に私の顔を見る。

「…はい、ラッピングしてもらえますか?」

え?
別にわざわざそんなことしてしてもらわなくていいのに。
お姉さんは、ニコッと笑う。

「はい、かしこまりました。
ではお先にお会計失礼致します。」

会計が終わり、お兄ちゃんに番号札を渡される。

「ごめん灯、ちょっと電話してくるからこれ、受け取っといて。」

「わかった。」

お兄ちゃんから番号札を渡されると、私だけが待つ。
ちょっと待つと、お姉さんが私のもとへやってくる。

「番号札をお持ちですか?」

「あ、はい。」

番号札をお姉さんに渡す。
お姉さんはニコニコ笑っていて


「彼氏さん、かっこいいですね。」


そう言われた。
ちょっとびっくりして、ぽかんとしてしまった。

「ありがとうございました。
またのご利用をお待ちしています。」

お姉さんはレジへ戻り、私は外で待つお兄ちゃんのもとへと行く。

「受け取った?
じゃあ帰るか。」

「うん。
ありがと、お兄ちゃん。」

手を差し出され、一瞬躊躇ったけどまた手を繋ぐ。
少ししたら完全に違和感がなくなった。
そのまま出口に向かって歩き出す。


「お!月島ァ!」


私とお兄ちゃんは同時に振り返る。
無理もない。
2人とも月島だから。

「赤井沢さん!」

呼ばれたのは私ではなく、お兄ちゃんだった。
赤井沢さんと呼ばれた人はお兄ちゃんと私の顔を交互に見ると、ニヤッと笑った。


「月島ァ、彼女とデートか?」



私とお兄ちゃん、同時に首を傾げる。

そして間があって、やっと気付いた。
そうだ私達手、繋いでる。

パッと手を離す。
赤井沢さんはガハハと豪快に笑う。
お兄ちゃんはイマイチわかっていないだけど。
よくわかっていないまま、お兄ちゃんは言う。

「彼女じゃないですよ?
妹です、この子。」

笑っていた赤井沢さんも驚いたのか、静かになる。
「え?」と聞き返された。
そりゃそうだ。
普通は兄妹で手を繋がない。

「灯、この人は赤井沢さん。
俺がこの前から参加してるバレーチームのWSをしている人だ。」

「えっと、月島灯です。
いつも兄がお世話になってます。」

頭を下げると、赤井沢さんも返してくれる。

「赤井沢です。
君が灯ちゃんか。
月島から何度か話を聞いたことがある。」

「エ……。
お兄ちゃん、何話してんの?」

「何って、特別なことはなにも。
高校生の妹と中学生の弟がいる、ってことくらい。」

「……そう。」

私達はちょっと赤井沢さんと会話すると、挨拶して別れた。
そのまま駐車場に向かい、私は車の助手席に座る。
お兄ちゃんは運転席に座り、車を発進させる。

「……そういえばさ。」

私はお兄ちゃんに話しかける。

「うん。」

「さっきのお店でも私達、カップルだと思われてたよ。」

「ふぅん。」

お兄ちゃんは何も気にしていないようだった。
まぁ、そんな人だ。
昔から。


「嫌だった?」


「…え?」

お兄ちゃんに聞かれてちょっとびっくりした。
もしかしたら気にしてたのかもしれない。

「…別にそういうわけじゃないよ。」

「そっか。
じゃあよかった。」

お兄ちゃんと私、本当に血が繋がっているのだろうか。
そう思うことが多々ある。

でも結局私も、最後は気にしない。
だから変わらないんだ。
お兄ちゃんと私は。


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