立ち向かえ、学生諸君。

「…バレーしたいよ…岩ちゃん…。」

「そーだな。」

「…………。」

学生には避けられないものがいくつかある。
その1つがこれ、定期テストだ。

「あんたがみんなで勉強しようっていったんでしょうが。」

そう、発端は及川。
及川が勉強しようって言い出したからみんなで今、学校の食堂で勉強をしている。
食堂は昼休みの後は勉強したり部活の話し合いしたりと、好きなように使えるようになっているから。

「でもやっぱりバレーしたいじゃん。」

さっきからうだうだずっと言ってるのは及川。
及川以外は黙々と勉強している。

「うるせーぞー…。」

ほら。
岩泉でさえこんな感じだ。

「…学年末テストなんだからしょうがないデショ。」

ため息をついて及川にそう告げる。
そう、今度のテストは学年末のテスト。
つまり2年生のまとめとも言えるようなものだ。
だからその分、範囲も広い。

「てゆーかさ、灯ちゃん髪型戻しちゃったの?
あとメイクも。」

「……いや、だってテスト期間中はそれどころじゃないでしょ。」

「テスト期間前も戻ってたじゃんか。
てゆーかあの日だけだったよね、変わってたの。
何で?」

あの日、というのは私が二口とケーキバイキングに行った日だ。
花巻の助言もあり(そもそもそのつもりだったけど)及川には伝えていない。

「…えっと……。」

隣に座る花巻をチラッと見るが、花巻も問題集を解いている。
助けてもらえそうもない。

「…別にいいでしょ。気分。」

とりあえず上手い言い訳も思いつかず、そんな風に流した。

「えー。
じゃあまた気分になってよ。」

「……気分になったらね。」


「……じゃあ俺が今回のテストで10位以内に入ったら、またあの日みたいにして?」


……面倒臭い。
いいよと言えば、多分及川は10位以内に入るだろう。
今だって成績は悪くないし。
でも、嫌だと言えばまた面倒臭くなることは目に見えている。
それに比べれば大した面倒じゃないか。

「はいはい。
じゃあ10位以内に入ったらね。」

「やったー!
じゃあ5位以内に入ったらデートね。」

「………。」

「ねぇ何でそんな面倒臭そうにするの?ねぇ。」

煩いな、ほんと。

「及川、月島ウザがってるから。」

助け舟を出してくれたのは松川。
ありがとう松川。

「松川、私と場所替わってよ。」

私の目の前には及川。
そうかだから煩いんだ、ここ。
及川の隣は岩泉。
そして私のすぐ隣にいて岩泉と向かい合ってるのは花巻、松川は花巻の隣だ。

「えー……。
俺も嫌だな。」

「待ってまっつん!嫌って何!」

…ほんと煩い。


「月島、場所替わる?」


……!
そう言ってくれたのは花巻。
正面から斜めになるだけでもちょっと変わるかもしれない。

「替わる。」

「ドーゾ。」

「ちょっとマッキー!」

席を交換する。
……まあ、ちょっとは変わったかな。
及川、斜めだと話し辛そうにしてるし。
でも


「やっぱり煩い。」


そう言えば、及川は「エ?」と固まり、松川と花巻はブッと噴き出す。
岩泉はやっぱり黙々と解いている。

「酷いよ灯ちゃん!」

「え、だって……ねぇ?」

2人に同意を求めれば、2人とも笑いながら頷く。

「じゃあそんな月島にはこれを貸してあげる。」

「ん?」

花巻がガサゴソと自分の荷物を漁ると、そこから取り出したのはヘッドホン。

「はい、これ着けてな。」

「わぁ!
ありがとう花巻!」

「いーえ。
月島はこういうの好きかも。」

花巻が適当に音楽を流してくれる。
やっぱり花巻はセンスがいい。
すごく私好みな音楽が流れてきた。

「こういう曲好き。
ありがと、花巻。」

「どーいたしまして。」

ヘッドホンを着けて音楽を聴きながら問題を解く。
静かになってすごく勉強が捗った。
そして時間が経っていくと、音楽はアップテンポだったものがどんどんローテンポな曲へと変わっていく。
疲れも出て来たのか、それが私を夢の中へと誘うには十分な要素だった。










『………好きだよ、灯。』



誰かの声が聞こえた。

そして、柔らかくて温かい何かが私の口角に触れる感触。




「………あれ?」

「オハヨ。」

上から降ってきたのは花巻の声。

「……寝てた。」

「寝てたネ。
2時間近く寝てたかな。」

「げ…。
そんなに…。」

時計を見ると、もうじき7時になる。
外も真っ暗だった。

「あれ…みんなは?」

「帰ったよ。」

「……ごめん、待たせて。」

「全然いいよ。
じゃあもう帰るか?」

「うん、そうだね。」

私達は帰り支度を始める。
するとふと、さっきの声と感触を思い出す。

何故か目に入ってきたのは、花巻の薄い唇。

「……花巻さ。」

「ン?」


「……私に、何かした………?」


なんでこんなこと、花巻に聞くんだろう。

「何かって?」

それに、


『私にキスした?』


なんて、口が裂けても言えなくて。


「……ううん、なんでもない。
寝ぼけてたのかも。」

「…そっか。」

「うん、ごめんね。
帰ろ。」


きっと妙にリアルな夢だったんだと

そう思うことにした。


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