sour lemon's gummi

「二口!」

「月島さんお疲れ様です。」

ちょっと早く駅に着いた。
待ち合わせ場所で待ってようかと思ってそこへ行くと、すでに二口はいた。

「ごめんね、待たせちゃって。」

「いえいえ、俺もさっき来たとこなんで。
じゃ、行きましょうか。」

「うん!」

二口と並んで歩く。
話す内容はバレーのこととか、好きな音楽の話。
そんなことばかり。

楽しいのに、ちょっとモヤモヤしているのは何故だろう。


「…混んでるネ。」

「混んでますね。」

もちろん、空いてるとは思っていなかった。
平日の午後。
学校帰りの学生が多い。
やっぱりこの時間は小腹が空くんだ。
ちょっと遅めのおやつの時間にちょうどいいし。

「…待ちますか。」

「そうだね。」

私達は番号札を取り、座って待つ。
右も左も学生。
どうやら月曜日は学生だと半額になるらしい。
だからこんなに混んでるんだ。

しかも

「見事にリア充ばっかりですね。」

「……そうだね。」

埋まっている席の半分はカップル。
待っているのもカップル。
そして残り半分はほとんどが女の子のグループで、2、3組男の子のグループ。

「まぁ、俺らもはたから見たらカップルですけどね。」

そう言って笑う二口。
薄々そう感じていた私だけど、いざ口に出されると恥ずかしかった。

「そ、そういうこと言わないで…!」

「え?
事実じゃないですか?」

「そうかもしれないけど!」

ニヤニヤと笑う二口。
なんだか楽しんでるみたいでちょっとムカつく。

「いいじゃないですか。
今日1日くらいは擬似彼女になってくださいよ。」

「擬似彼女…。
なんかその言い方嫌だ。」

「じゃあ………義理彼女?」

「……なんか違うと思う。」

「俺も違うなって思いました。」

「ニセ彼女?」

「それも違くないっすか?」

いつの間にか恥ずかしいと思ってた気持ちも無くなって、2人で延々とそのことを考えていた。

結局しっくりくる言い方が思いつく前に順番が来て、席に案内される。

「食べるよ!」

私はお皿をとって、とりあえず目にとまったものをどんどんお皿に乗せていく。

「結局とりますね。」

「甘いものなら行ける気しかしない。」

「なんすかそれ。」

ケラケラと二口が笑う。
2人でそれぞれ欲しいものを取ると、席に戻る。

「いただきます!」

食べる。
食べる。
食べる。

「美味しいですか?」

「超美味しい!」

「待った甲斐ありましたね。」

「うん!」

あっという間に無くなって、また取りに行く。
そして食べて無くなったらまた取りに行く。
それを繰り返す。

「月島さんの胃にキャパはないんですか?」

「え?そ、そんなに…かな?」

これ遠回しにデブって言われてんのかな。

「あ、いえ、この前はそんなに食べるイメージなかったんで。」

「そりゃ二口に比べれば少なかったかもしれないけど、あれ一人前だからね?」

そういう二口は、といえば。

「あんまり食べてないね?」

「そうっすか?」

「うん…。」

思った程食べてない。
いつも花巻とか蛍と行くときは、2人とも片っ端から食べていく。
私もだけど。
だからちょっと意外だった。

「あんまりお腹の調子よくない?」

「?
別にそんなことはないですけど。」

「…そう。」

「………。
あ、月島さん、新しいケーキ出てきましたよ!」

「え!ほんと!!」

見るとそのケーキはチョコレートが綺麗にコーティングされた、なんとも私好みなケーキ。

「とってくるね!
二口はあれ食べる?」

「食べます。」

「じゃあ二口の分も持ってくる!」

近くまで行けば、やっぱり私好みのケーキだった。
食べる前からわかる。
このケーキは美味しい。
とりあえず4切れくらい取って戻る。

「はい!」

「めっちゃ取ってきましたね。」

「だってこれ美味しいもん。」

「食べたことあるんですか?」

「ないけど見ればわかる!」

「なんすかそれ。」

そう言って二口は笑う。
二口が笑ってくれたのに安心して、私も笑う。



あっという間に制限時間が終わり、私達はお店を出た。

「あ、すみません、ちょっとコンビニ寄ってもいいですか?」

「ん?いいよ。
私も行く。」

二口についてコンビニに入る。
私はとりあえず温かいお茶を買う。
そして二口はレモンのグミを買っていた。

「すみません。」

「ううん。全然。
グミ買ったの?」

「はい。
俺これ好きなんすよ。
食べます?」

「あ、じゃあ1個。」

せっかくなので1つもらい、食べてみる。



「酸っぱ!」


とてつもなく酸っぱかった。

「え?そうですか?」

美味しそうにもぐもぐとグミを食べる二口。

………まさか


「二口…甘いもの苦手だった…?」


「……え?」

ジッと二口を見る私から逃げるように、二口は視線を逸らした。
それは明らかに肯定の意。
それと同時にこみ上げる罪悪感。

「ご、ごめんね!
私……二口も甘いもの好きなんだと思ってて…!」

「いや、別に普通に好きですし嫌いなわけじゃないんで。
…俺こそすみません。」

「………。」

どうしよう。
気まずくなってしまった。

「……ほんと、気にしないでください。
誘ったのは俺なんだし。」

「でも…。」

ちょっと胸にあったモヤモヤと罪悪感感が一緒になって、大きなモヤモヤが私の胸に痞える。

「確かに甘いもの大好きってわけじゃないですけど、今日来てよかったって心から思ってますよ。」

「…なんで?」


「月島さん独り占めできたから。」


……?

最初、何を言われているのかわからなかった。
二口はまた意地悪そうに笑っている。

「いつもそのくらいメイクしてるんですか?」

「…ううん。今日は特別…。」

「え?マジすか?
髪型は?」

「髪も…特別…。」

なんで私はこんなネタばらしをしているのか。
ちょっと恥ずかしくなった。


「俺今、ほんと今日来てよかったと思ってます。
産んでくれた母親に感謝するレベルで。」


「そ、そんなに…?」

「はい。
超可愛いですよ、月島さん。」

「!
あ、ありがとう…。」

直球でそんなこと言われたから、恥ずかしさ通り越してどうしたらいいかわからなくなった。

ケド

モヤモヤは消えて無くなった。


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