中身はただのエゴイスト。
「ちょっと月島さん、いい?」
嫌だ。
昼休みになった途端、これだ。
私に声をかけたのは同じバレー部のマネージャーの1人。
挨拶程度しか話したことがない。
その挨拶ですら、ここのところ交わしていないが。
その後ろには更に2人、マネージャーの子。
そしてもう1人、同じクラスの及川教の子。
つまり私は今、4人に囲まれているわけだ。
他3人もほぼ話したことはない。
こんなあからさますぎる誘いに乗るものか。
「悪いけどこれからお昼食べるから……。」
事実だし、断る。
「ふぅん?
じゃあこれ、いいんだ?」
「!!
なんでそれ…!」
彼女がチャランという音と共に差し出したのは部室の鍵だった。
すぐにカバンの中を確認するが、ない。
「返して…!」
「じゃあ来てくれるよね?
月島さん?」
「……わかった。」
私はそうするしかなかった。
連れてこられたのは人通りの少ない裏庭。
いつの間にか4人以外にも人が集まっていて、後輩3人を含めた計7人に囲まれている。
私はここで殴られたりとかするのだろうか?
「……それで、ご用件は…?」
一応聞いてみる。
もちろん想像はついているけど。
「あんたさ、何なの?」
……これまた抽象的な質問。
自分で自分に驚く。
意外にも、かなり冷静だ。
「何なのって言われても…。
普通の女子高生…だけど。」
「そういうこと聞いてないんだけど。
月島さんさ、及川くんの何なの?」
「…マネージャー?
及川のっていうかバレー部の。」
「ウッッザ!!!」
急に大声をあげるからびっくりした。
「月島さんさ、及川くんと何の関係もないのになんでいっつも及川くんのこと追っかけ回すわけ!?
及川くんが困ってるのわからない!?」
………はい?
毎回思うけどなんで私が及川のストーカーみたいな言い方されるワケ?
「しかも及川くんに変なこと言ったでしょ!!」
「変なこと?」
「とぼけてんじゃねぇよ!!
お前が及川くんに余計なこというから及川くんうちらにお前と仲良くしろって言ってさ!」
及川何余計なことしてんだバカ!
「及川さんは優しいから月島さんに何も言えないのかもしれないですけど!!
だから代わりに私たちが言ってるんですよ!!」
何も言えない…ねぇ。
「……アホらし。」
「…今なんつったよ?あ?」
チンピラみたいに凄まれるけど、彼女達を見下ろしてるのは私だ。
「てゆーか、月島さんほんとでっかいよね。
見下ろされてむかつくんだけど。」
及川関係で言うことがなくなったのか、今度は私の容姿についてグチグチ言い始めた。
「わかるそれ。
デカい癖に男に色目使ってキモいわぁ。」
「いっつも最後まで部室残ってますけど、及川さんのこと出待ちしてるんですかぁ?」
「そういえば月島さん、売春してるんでしょ?」
えぇー!?とわざとらしく盛り上がる。
「月島さんって北一だよね?
北一だった男子が言ってたよ。」
「そーいえば1年の北一出身の男子も言ってましたよぉ?
頼めばヤラしてくれる先輩がいたって。」
ゲラゲラ笑うこの子達。
本当に不思議だった。
「おい何とか言えよ!」
「せんぱぁい、月島さん、ビビって何も言えないんじゃないですかぁ?」
『なんだちゃんと言い返せるじゃん。
事実無根なら堂々としてなよ。
それにあの人達よりあんたの方がよっぽど美人なんだから自信持って。』
二口に助けてもらった時、言われた言葉がずっと頭に浮かんでいた。
「…話はそれだけ?」
あんなにゲラゲラ煩く笑っていた子達が、一気に静かになる。
それにぽかんと間抜けな顔。
可笑しい。
私が一歩前に出れば、全員がちょっと下がる。
「あのさ、ずっと言われっぱなしだったからいい加減言い返させてもらうよ?
先ず、私は及川のこと追いかけ回してない。
友達、もしくは部活の仲間以上には思えないからね。
あと変なこと吹き込んだみたいに言ってたケド、事実デショ?
違うの?
事実だから焦ってるんだよね?」
「ち!違う!!
そもそもあんただけが伊達工行くから…!」
「ハァ?
そういうことは仕事の1つも出来るようになってから言ってくれる?
そもそも部活で遅くまで残ってるのも活動日誌書いてるからだし、及川も主将だから残ってなきゃいけないの。
何なら誰か代わってくれてもいいんだよ?」
そう言えばだんまり。
そうだよね。
みんな及川に群がってるだけだから活動内容なんてわかんないもんね。
「……デカ女のくせに…」
「うん、身長は確かにみんなよりもあるよ。
大きいのは事実。
それが何か問題?
でも君らの大好きな及川クンの方がよっぽど大きいけどね?」
「売春女!!」
「…ねぇ、それまだ言ってるバカいるワケ?
特に使わないからお金はお小遣いで充分だしそんな時間もないんだケド。」
そう言うと、もう言うことがなくなったのか各々が好き好きに言いまくる。
多分誹謗中傷の嵐だろうけど、何を言っているのか何一つ伝わってこない。
「月島さんなんかに!!
及川さんの魅力はわかんないんでしょ!!!」
何故か聞こえたその言葉。
私はそう言った後輩の子を見た。
「ねぇ。」
「ヒッ!」
声をかけたら、何故か悲鳴を上げられた。
「あんた達はさ、及川のどこが好きなの?」
そう聞けば意味の分からなそうな顔をされた。
そして口々に言う。
笑顔
優しさ
バレーをしている時の格好良さ
とにかくまとめるとそんな感じだった。
外見ばかり。
それを聞いて、笑ってしまう。
「何笑ってんのよ!」
「みんなそんな及川しか知らないんだな、って思って。」
そう言えば、またギャーギャー言い出す。
優しさ?
及川は確かに優しいけど、それは外向けの優しさデショ?
いつも貼り付けてる笑顔と一緒。
本当の及川は……凄く自分本位。
昨日の及川の言葉を思い出す。
『俺、灯ちゃんしか見てないからわかんないや。』
ほら、自分本位。
私がどんな思いしてるかなんて、及川は知らないんだから。
「ねぇ、もういいデショ?
鍵返して。」
私が手を差し出せば、また黙る。
「返せって言ってんの!!」
私が声を荒げれば、みんな驚いたらしい。
久しぶりにこんな大声出したから。
恐る恐る私の手に落とされる部室の鍵。
しまう場所、また考えないと。
私はその場を後にした。
なんだか、心が少し晴れた気がした。[ 10/41 ][*prev] [next#]
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