romanticist typhoon

「ねえ灯ちゃん。
俺のこと避けてるデショ?」


「………なんで。」

火曜日の部活終了後、及川に絡まれた。

「最近教室いないし、俺が話しかけても無視するし。」

「…別に避けてない。」

「避けてるじゃん。」

「避けてません。」

「嘘だ。」

「本当。」

本当に避けているつもりはない。
確かに教室にいないのは事実だ。
でもそれは及川を避けて教室にいないわけではなくて、悪いのはあの教室の空気だ。
及川教の子達から放たれる空気感がすごい。
とてもじゃないけど、あの空間にはいられないし、いたくない。

「俺、何かした?」

「しつこい。」

いつもしつこいけど、今日は一段と執拗に絡んでくる。
そのせいで、何度か手を止める。

「あのね、本当に私避けてない。
及川も………まあ……100パー悪いわけでは…。」

「ほらやっぱ俺のせいじゃん!
ごめん!ごめんね!
悪いとこあったら直すから!」

「だから及川が悪いわけじゃないって言ってんじゃん。」

「言ったじゃん!
俺が悪いって!」

「言ってない。」

「言った!」

「………。」

私は完全に手を止めた。
いい加減及川がうざい。


「……じゃあ言うけど、アンタは教室に居てあの空気何にも感じないワケ?」


「教室の空気?」

ほら、キョトンとしてる。
この男はいつだって真ん中にいる。
だからどんなに周りの空気が悪くたって感じないんだ。
台風の目みたいに。

「及川きょ……アンタのファンの子達。
あの子達からかなりキツイ空気漂ってるの。」

「それが俺のせいなの?」

「だから及川のせいじゃないの。
……わかんないならもうい
「ごめん。」」

私の声を遮った及川の謝罪。
そして




「俺、灯ちゃんしか見てないからわかんないや。」




……は?


「他の子なんか見てない。
中学の時からずっと。」


……何、それ。

立ち上がる及川。
こんなに大きかったっけ?
私は椅子に座っているから?
本当にそれだけ?


「…書き終わった?日誌。」

「……もうちょっと。」

「そう。
じゃあ早く書いちゃいなよ。
岩ちゃん達、待ってるから。」

「……うん。」

何だろう、この気持ち。
私は日誌を書き終えると、及川と一緒に部室を出た。
私は部室に鍵をかけ、その鍵はいつもの場所にしまう。
その後は、及川と並んで校門まで行く。


「ごめんね、灯ちゃん。」

「……もういいから。」

「いつも岩ちゃん達のところにいるの?」

「ううん。
夜久ちゃん達のところ。」


「そっか。
じゃあよかった。」


そう言って笑った及川の顔が、いやに格好良かった。

一瞬だけ、及川教の子達の気持ちがわかったきがした。
けれど、違う。
あの子達は、多分こんな風に笑う及川を知らない。

「どうかした?
灯ちゃん。」


「……及川って、かっこいいんだね。」


「……え?」

「あ、岩泉達いた。
行こ、及川。」

「ま、待って!」

及川に腕を掴まれそうになった。
掴まれる前に自分の腕を引く。

「待たないよ。ごめんね。」

ダッと走って3人のもとへ。
久しぶりに全力で走ったら、息が上がった。

「どうした月島、そんな走って。」

ホラよと渡されたのは、あったかいココア。

「え、なにこれ。
どうしたの?」

「いつも雑務頑張ってくれてるからな。」

「俺たちからの差し入れだヨ。」

「コンビニ行ったついでだけどな。」

あったかい。

「ありがとう。
……でも走ったから冷たいお茶がよかったな。」

「なんなんだよお前。」

呆れる岩泉と、笑う花巻と松川。

「ウソウソ、ありがと。
嬉しい。」

「ねえ岩ちゃん、俺にはないの?」

いつの間にか、私に追いついた及川。
追いつくのは当たり前か。

「………。」

「え!ウソでしょ!?
マッキー!」

「………。」

「まっつん!?」

「………ポッキーでも食べる?」

「ヒドい!!」

スネる及川と、笑う私達。

「ほら、お前にもちゃんとあるよ。」

岩泉がプルプル笑いを堪えながら及川に缶を渡す。

「ありがとう岩ちゃん!!
でもなんで俺は冷たいコーヒーなの!?ねぇ!」

堪え切れなくなったのか、3人が思いっきり噴き出して笑う。
つられて私も笑った。
及川だけビドイヒドいと怒ってる。


ああ、やっぱりみんなが好きだなと思った。

岩泉も花巻も松川も。

そして及川のことも。
及川のことは好きだ。
及川にさっき感じた感情は、恋心なのかもしれない。

でも、好きにはならない。
異性として好きには。


もう2度と、

及川に恋しないと決めたから。


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