L1-50 | ナノ


05/9
私の好きな人って、実在すると犯罪者になっちゃうんです。あと私はその人のためにそこまで投げ出せないし……一緒に居たいとも思えないし……だから実在しないもののほうが好きなんです。

男の大きな骨張った手で撫でられるわたし。……なんだか今のわたし、もしくは状態、とても不健全だ

イマジナリーフレンド、わたしのルルゥ。わたしの頭にだけいるコ。すがたかたちを想像してみる。長い髪、ぱっちりした目、小さな鼻………あ、ぱちんと弾けてしまった

何かの這う感覚で目が覚める。目前に鼻にてんとう虫が渡っているのが飛び込んでくる。おぞましくて跳ね起きた。その瞬間に飛び去った。ううと呻いてから植物に水をやる

左の腕だけをよく洗う。キッチンペーパーで拭う。クリームたっぷりの、スポンジケーキを落ちないように塗る。舐める。文字通り甘く冷たい耽美な性癖。私を慰める御主人様が居ないから。或いは、私の被虐の欲望を叶えてくれる人が居ないから

私の胸には長い傷痕がある。そこまで深くはなかったのに、いつまでも一本の線のように残っている。それは兄からナイフで裂かれたという事実を静かにわたしに教え込んでいる。ブラのホックをとめて、ブラウスのボタンをかけた。
兄はベットで横になったまま天井を見続けている。兄は精神を壊してしまった。私を押し倒し、服を剥ぎ取り、ナイフで傷付けたあの日から。いつもより早く帰宅した両親は一目散に私達は引き離した。両親は一度だって見舞いに来ていない。私が来ていることも知らないだろう。私は今でもあれらをくっきりと思い出せる。全てを。
私は初めから抵抗らしい素振りを見せなかった。あの時手にしていたナイフだって、私を傷付けるためではなくただ脅すためだった。それを分かっていた。最後には良心が働いたということだろうか。
兄の髪を撫でる。布団を肩まで掛ける。睫毛を見る。濡れた瞳を見る。時折微かに痙攣する唇を見る。
兄。私のオム・ファタール。永遠に私達が結ばれることはなくなった。結ばれようとした絶頂から、果てのない虚空へ突き飛ばされた絶望を私は永遠に愛す。

あたし達に映画みたいな愛憎はいらないの。お互いの肉体、指先、足、水晶体があればそれで。あたし達は上編で出逢い、下編にたどり着ける

私は両の足で立っていた。波打ち際を踏み締めるその足は、時おり踝辺りまで冷たくなる。気配を感じて振り返る。その人は膝下半分を失って車椅子でこちらまで来ようとしている。砂浜は大変ね。自分の膝下に目を落とす。本当に、変な人だったと泣き笑った。

私ね、雪がタイヤに踏み潰されていく音好きなんだ。
……嬉しいな。私たちこれから二人きりなんだね。
何しよっか。庭付きのお家が欲しいなって思うけど、それはちょっと贅沢?
ああそんなことよりお料理頑張らなくちゃね。私、シチューが好き。


04
その言葉を言われて、わたしその時初めて分かったのだけどそれがあなたから一番聞きたかった言葉だったみたい

それは清潔なまぐわいであるらしい
それは私が至らない歳月であり、
きみはわたしに触れないだろう
わたし達は最もたる、夢

あなたの仕草、話し方、目を見ていると誰かを思い出しそうな気がした。でもコーヒーを飲んだら忘れてしまった。しばらくして会計を済ませたら手を振ってわたし達は別れた。駅に向かう途中、ああわたしの叔父だと思った

私は男を、見ている。鋸で手足を奪った、男の。男は私に媚を振っている。ペットみたいで可愛い。ストックホルムかな。いい兆候だね。

ボールパイソンを飼った。体長がよく伸びるように、大きなケージで。探すの苦労したのよ、と買ったばかりのボールパイソンに言ってみる。私の家、ワンルームだからクローゼット捨てちゃった。名前はなにがいい?レールモントフなんてどう?私の好きな人なの。腕をいれて、ひらひら揺らしてみる。明らかに捕食者の目付きをした。私の腕の血管は細いらしい。…………………食べてもらえるにはまだまだ親愛が必要ね。冷凍マウスを解凍する。

抱きしめれると、あなたの身体の形が分かるのが好き。だから、ハグと呼ばれるこの行為が好き

幼き頃からサーカスに居るゾウへの催眠術のように。ねえ、わたくしは子ライオンよ。所有してもらえないといつか逃げ出してしまうわ。愛すなら、催眠術をかけてね。

そう、恋人になりたいと思う動機には充分。わたし、バレンタインに知人にあげるつもりだったものを食べてしまった前科があるのに

逃げ出せたけど、走っているけれど、結局何処へも行けないのでしょうね。あなたがわたしをわたしたらしめるのだから。あなたが探しにきてわたしの居場所を突き止めてくれなかったら、きっとわたしは死を選ぶわ。足裏に棘が刺さる。やっぱり逃げ出せたとしたら裸足でした。

全部を肯定してあげる。あなたが望むならピアノも弾くわ。膝を差し出すわ。身体を貸すわ。でもあなたは親指の背を噛むのをやめない。結局は孤独を孤独たらしめるのはあなたのせい。でも、そんなあなたが好きよ。その孤独に飽きたら一緒にこの白い家の庭で遊び、コヨーテを撫でましょう。そしてまた孤独になりましょう


03
私は孤独な生き方しかできなくて他者への思い遣りがないから素敵なものが必要みたい。ラ・フランスのタルトタタン、とか。そう、私が人らしく生きていけるのは五月だけ。

土の強く薫った庭は獰猛。枯れた花がその証よ。あらゆる栄養を喰らい、わたしの家に入ろうと細胞を蓄えている。この間、泥の腕が生えていた

久しぶりにお店のご飯を食べた。合鴨、ボロネーゼ、ステーキ、辛口のジンジャーエール。どれも美味しかった。海の見える素敵なお店でずっと夜の海を眺めてた。それから家に帰ったらいつもは六時間で目が覚めるのだけど気付けばどっぷりと八時間眠っていた。それなのに、朝から気怠げでそれは眠るまで続いた。海から呼ばれていたのかも知れない。

眠れるように抱いて、それから撫でて。そしてあなたのお母さんが歌ってくれていた子守唄をわたしに歌って

昔から父のことは嫌い。でも性癖も彼に似て、似たような顔ばかり好きになる。父が父でなければよかった

わたくしの初恋は同級生の男でもなんでもなく、わたしの頭を優しく撫でながら乳を与えた乳母なのです

ベットに足を忍ばせたらあなたの顔にして眠るの。そしたら起きたらあなたの顔が鏡に映るでしょ。楽しいわ。

あなたの大事なものを奪い取りたかった。箱を開ければ綺麗な貝殻しかなかった。あなたと出会った場所だった

結局わたしは、あの人なしでは生きていけません。生かすも殺すも、あの人次第。そしてそれが、やはりわたしをわたしたらしめるのです。

そしていつか私はあなたの心臓で鼓動できたらいいと思う。指で手繰り寄せて、ぴったりとくっついて。そのまま。そう、血潮が同じになりたいの。半身であるかのように、片割れであるかのように。叶いっこないから。私の嵐を撃ち抜く銀の弾丸だ、あなたは。


02
彼はどうやら死体愛好家らしい。私は寝そべり、目蓋を下ろして腕も首も足もだらしなく伸ばす。力を抜く。足首を掴まれて引き摺られる。今日は何処かしら、そんなことを考えながら体温と膣内を冷たくする。

あなたが踊り場でピルエットターンをして切り揃えられたボブが揺れた瞬間、階段から突き落としてやりたい衝動に駆られた。そのあまりの美しさが、こわかったから

恋する人々に振られ、もうお前しか居ないだなんて言われたら。ねエ、貴方にこんなに甲斐甲斐しく世話するのを愛以外だと呼べますか。でもその翌日に貴方は手首を切って浴室に手を沈めていた。私は買い物袋を落としてしまって果物が転がった。私は跪いて足の爪先にキスをした。私、やっと貴方に触れられたわ。口付けできたわ

あなたの青春を奪いたい。あなたは私の年頃の姉か兄になり、私はあなたの幼い妹か弟になる。そして両親を亡くして、あなたが私を育てざるを得ない状況にしたい。献身でも憎悪でもいいよ。

私は父を愛している。父のことを疑似的に愛している。だから腹違いの兄に手を出した。血潮はよく似ていると思う。互いの血が沸騰している。頭が茹っている。父のことを疑似的に愛している。いつかこの秘め事が知られて父が怒り狂えばいい。私のために。ああ、私が男であったなら。私のための男よ。

あなたの背中を裂いてあげる。外気に晒される血は天に昇り、空気へと溶けるでしょう。熱い血潮はあなたが感じられない己の熱を自覚させ、影を浮かび上がらせるでしょう。いつか血は流れなくなり、それでも微かに盛り上がる傷痕をあなたは愛するでしょう。忘れてはだめよ、ただそう思うの。何かは分からないけれど。ナイフを持つ手が震える。

ここの楽園には冬しかない。割れた土地に草木はなく、根すらも枯れている。命など芽生えない。そして私一人だけ。今日も冷たい空気が私の油分を奪う。吐き出した息は白く。作った料理はどんどん冷めていく。そうして一日を終え、外へ出て日の光を浴びる。あたたかさを感じられるのは日没だけだ。ここには冬だけが存在している。

君を紅茶に沈む眠り薬で眠らせて、硬くて日の光に当たればやわく光る鱗をこっそり剥いでいく。人間になればいい。

みんな死んでいって、この村には私と墓と土の下で眠る皆しか居なくなった。いつのまにかユニコーンのような角が額から生えていた。

蕾が生まれて、それが必ず花開くというなら私は永遠に蕾のままする。誰もあなたの魅力に気付かない、未貫通の乙女の完成よ


01
初めての性体験は衝撃的だった。うんざりする程触られて輪郭をなぞって何度も確かめる様に、その指で。やがて異物を入れられた時に、私は確かにこの世に存在するのだと初めて思えた。

カーテンを閉めようとした時、焦げたにおいが鼻をついたのです。今日も誰か焼かれているのだと思い、そっとカーテンを閉ざしました。

昔、お前と心中する為にできた手首の平行な傷。お前と私は心中に失敗し、海から町へと帰った。お前は、塞がった傷を時折裂き、口づけを落とす。お前の狂気。

最近、怪我をすることが増えた。と言っても狭い火傷だったり指を軽く切ったりなどとの些細なもの。きっと、きみの恨みが海の向こうから届いているのだと思ってほくそ笑む。

わたしが妖精ならよかった。あなたのことを文をしたためようとしては何も思い浮かばないの。あなたのことが好きで、だけど何を書いたらいいか分からないの。どうしても言葉にはできないのよ。

親の思考回路は理解できても共感できやしない。友人たちもある時ふっと連絡が付かなくなっても私は特に悲しまない。私はそのように出来ているから、今日も着飾って自分だけを愛する

その時、ある映画のシーンを思い出した。昔、私が子供だった頃見たもので女が男が浮気しているのを知って一つの空間に二つあるシングルベッドで眠る男に強く抱きしめてとこっち来させて強く抱きしめてもらったというものだ。

ネオンが照らすこの街で、郷愁を思い出してしまうようなメロウチックな曲で栓をして、泣けないけど泣きたいみたいな気持ちで歩くの

あなたは優しくて底抜けに明るいけれど人の命を奪ったという冷たい事実がある。でも、好きよ、どうしようもなく。

あなたが憎かった。諦めていた。それなのに死に際に悪かったと言われて、それで救われてしまって、私の人生はこんなにも軽かったのだと知った


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