赤い服を着たあの人はプレゼントを置き、心を奪っていきました 「誰…。」 目が覚めた。 奇しくも12月24日深夜、12月25日未明。 良い子は寝てる時間。 まぁ良い子なんて歳じゃないけど。 世はサンタさまがやってくる時間。 まぁサンタクロースが親でした、もう来ませんよ、なんて時期はとうに過ぎてる訳で、わたしはいつも通りに寝てた訳だ。 だが目が覚めてしまった。 否、覚めて正解だっただろう、だってわたしは見てしまったんだ。 「不法侵入…。」 立派な犯行現場を。 「ぅわああ!なんで起きんだよコノヤロー!」 「なんでって別にいいじゃん好きにさせろよ!あたし怒鳴られる筋合いないだろ!っていうか、警察電話すんぞ。」 携帯を片手に睨みつけると、犯人は辛うじて眉間にシワを寄せているがとても情けない顔をしている。 なんていうか、小学校低学年の子相手にしてるみたいだ。 とか思ってたら、ハンッなんて鼻で笑いやがった。 「お前ガラ悪いな。」 「黙れ!不法侵入者に言われたないわ!」 「うわー、関西弁やめろよ、うちにもいんだよそんな奴。」 「知らねーよそんなこと!」 さっきまで泣きそうな顔してたくせに急に偉そうになりやがって…! なんて手強いくそガキだ…。 いや、体格的には同じぐらいか少し上だけどさ。 あれ、でも白い髭…って 白い髭? よくよく犯人の姿を見てみると赤い服に赤い帽子、白く大きな袋を抱えている。 「サンタ、クロース?」 いやいやいやどんなメルヘン?有り得ないでしょ。 「お、よくわかったな。」 当たりかよ意味わかんないよ。 なんでどや顔してんの、だから不法侵入の現行犯だってば。 「とりあえず警察に電話するから大人しくしてなさい。」 「まっ待てって!べべっ別に泥棒じゃねーから!むしろプレゼント持ってきてやったんだじぇ!あっ持ってきてやったんだぜ!」 噛んだし。何回か噛んだし。 言い直すなよ、どんだけ慌ててんだよ。 サンタを名乗る不法侵入者は、待てよ、待てよ、と半泣きになりながらあたしに片手の平を向けながら白い袋を漁った。 なんか、ここまで間抜けだと何もする気起きないんだけど。 携帯を握りしめる手がだらんと下がる。 「待てよ!ちゃんとあるんだきゃらな!」 また噛んだよ、大丈夫かこの人…。 つうかもう泣いてるじゃん、両手で探してるじゃん。 「アントーニョのヤローどこ入れたんだよー!」 いや、その袋じゃないの? 中に仕切りとかついてないだけでしょ? 「あーもー早くしてよー。」 「ううううっせぇ!」 「一緒に探そうか?」 「ハッ、お前に手伝ってもらう筋合いねぇよ。」 涙は何処へやら、見下したように笑われた。 「じゃあはよせーや!」 本当イラつくなぁ…! ベッドにドカッと座って貧乏ゆすりをしていると突然侵入者が立ち上がり赤い包装紙に包まれた箱を高々と持ち上げた。 「あったー!おいあったぞコノヤロー!」 「本当?!じゃあ早く帰って!」 同じテンションで言ってやったらうずくまってえぐえぐ泣きはじめたから思わず、ごめんごめんと頭を撫でる。 「まぁそういう訳でサンタクロース様からのプレゼントだ。有り難く受け取れ。」 「お前ウザいな。ああ!ごめんって!」 面倒くさい。 「ほら、早く寝ろ。」 「その前に帰れ。」 「サンタは何処から入ったか見られちゃいけねーんだよ。」 心苦しそうな自慢げみたいな表情を浮かべた自称サンタはスルーして家の廊下へと続くドアを見る。 わたしが寝たときにはキッチリ閉まってたはずなのに半開き。 明らかに付けた白髭に目を戻して、もう一度ドアに目を向ける。 自称サンタもドアに顔を向けたのか、うげっと声を漏らした。 「ド、ドアだって開きたくなるときぐらいあんだよ!」 ないよ。 あったとしても自力では開かないよ。 「いいから寝ろよー!」 「ぅわ!倒すなぁ!」 まぁ男女差には勝てない訳で、抵抗虚しく布団の中へと追いやられる。 「ヘッ!じゃあな!」 荒い足音が遠ざかる。 布団から這い出したときにはドアが大きく開いていた。 「ぷっ、帽子落としてるし。」 奴が落として行ったであろう赤い帽子を持ち上げる。 まだ温かい。 「気持ち悪いな。あ、プレゼントなんだったんだろ。」 小さな長方形の包みをビリビリと破いて出てきたのはペンダント。 「まぁ小洒落ものを…。しかしトマト?なんでトマト?」 平たいピンクゴールドのトマトのモチーフはただ誇らしげに光っていた。 シャンシャンと鈴の音が聞こえた。 ソリが空を飛ぶ訳はないけどなんとなくカーテンを開ける。 「変な奴だったなぁ。名前ぐらい聞いときゃ良かった。」 シャッとカーテンを閉めてペンダントを手にベッドに潜る。 「ん?なんで名前聞くんだよ!相手は不法侵入の犯罪者…あああ!110番してないや!」 トマトがキラリと光る。 奴が鼻で笑ってる気がした。 BACK |