▽ 07
「貴志くーん、お友達よー!」
一階から塔子さんの声が響いた。
友達って誰だろう?西村と北本かな?なんて思いながら階段を降りると、七辻屋の紙袋を持った田沼が玄関に立っていた。
「田沼!どうしたんだ?」
「ちょっと話したい事があってさ。あ!塔子さんこれ良かったら家族で食べて下さい」
「まあ!わざわざありがとう!あとで、お茶を持って行くから上がって頂戴」
塔子さんは、ふふっと笑うとキッチンへと戻っていった。
「急に訪ねてすまない」
「いや、良いんだ。どうせ暇だったし。それより七辻屋の饅頭ありがとうな」
「ポン太…じゃなかった、にゃんこ先生が七辻屋の饅頭が好きだって言ってたからさ」
田沼は座布団の上で眠っているにゃんこ先生を見て笑った。そして、塔子さんが持ってきてくれた冷たいお茶を一口飲むと、実はおれの友達の事で相談しにきたんだ…と言って、真面目な顔つきになって話を始めた。
「最近、友達の背後に変な黒い影が視えるんだ。最初は何だろうって思ってたけど、夏目が知っている通り妖怪に当たる体質だから案の定体調を少し崩してさ…」
そう言えば最近の田沼はどこか具合が悪そうで顔色も悪かった。廊下ですれ違う度、西村と北本がアイツ大丈夫か?と心配していたし、多軌も心配そうにしていた。
「それに…その影、徐々に友達に近付いてるみたいなんだ。最初は結構離れていたんだけど、昨日なんかその友達の背後まで近付いていたんだ。一応多軌に妖怪避けのお守りを作って貰ったんだが、やっぱり心配で…」
田沼は結露したコップをぎゅっと握り、俯いた。
「…おれは、妖怪が視えると言ってもぼんやりとした影にしか視えないし、それに妖怪の対処法も知らない。大事な友達すら守る事ができない…。不甲斐なくて仕方ないよ」
田沼はそう言って眉を八の字にして泣きそうな顔で笑った。
「だから夏目、力を貸してくれ。おれの大切な友達を守りたいんだ」
真剣な眼差しで訴えてきた田沼に、おれは力強く頷いた。おれの力が田沼の友達の役に立てる事は嬉しいし、何より大切な友人がおれを頼ってくれた事が嬉しい。
「おれに出来る事なら何でも言ってくれ」
「ありがとう。夏目!」
その後も、田沼にいろんな話を聞いた。影の特徴や友達が見ると言う夢の内容。おれが一番気になった事は、その夢の内容だ。
“紫陽花の模様が散りばめられた着物を着た青紫色の髪の女の人がずっと泣いている”
青紫色の髪の女の人ってまさか……。
「恐らくその夢の女は五月雨だろうな」
「先生起きてたのか」
先生は、今さっきだがなと言って大きな欠伸をして伸びをした。そして先生は茶菓子を見つけると、直ぐ様飛び付き食べ始めた。
「田沼の小僧、その友人を守りたいのなら目を離さぬ事だな。黒い影は其奴の“何か”を狙ってるやもしれん」
その“何か”はわからんがな、と口をもぐもぐ動かしながら先生はそう言って田沼を見た。
「わかった」
田沼はそう頷いて、氷が溶けて少し温くなったお茶をぐいっと一飲みした。
「今日は相談を聞いてくれてありがとう。にゃんこ先生、お土産に七辻屋の饅頭があるから食べてくれ」
なにー!食う食う!とはしゃぐ先生に思わず苦笑いを浮かべながら、おれも少しぬるくなったお茶を一飲みした。
「所で夏目、さっきにゃんこ先生が言っていた五月雨って誰の事だ?」
「話せば長くなるからまた今度詳しく話すよ」
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