▽ 05
「先生…」
「なんだ?」
「ナツメさんは、何で五月雨とずっと会っていないんだろう?」
おれはキヨと章史さんの事を思い出した。
「…見えなくなったか、もうこの世にはいないかだな」
前をてってっと歩く先生が淡々と言い放つ。おれは、そんな先生の姿をぼんやりと見つめた。その視界の端に映るに空は、先ほどまで晴れ晴れとしていたはずの青空から鉛色に変わっていて、今にも雨が降り出しそうな雰囲気を醸し出していた。
「五月雨の特徴だ」
その意味が分からず首を傾げたおれに先生は説明をしてくれた。
「やつが去った後は必ず雨が降る。5月から7月限定だがな」
「なんで…」
「五月雨は梅雨という意味をなすだろうが。ちなみに、やつは梅雨の前後以外はいつも寝ている。謂わば冬眠みたいなものだな」
本当にやつは不思議な妖怪だ…とにゃんこ先生はそう言うと、大きな欠伸をし、
「そろそろ雨が降るぞ!急げ―!」
と言って短い脚で走り出した。おれも先生の後を追うように走り出した。
―――……
昨日聞いた話と名字と話した話。それらに共通するナツメという名。
名字の叔父のナツメさん。
五月雨の言うナツメさん。
まさか同一人物なんじゃ…と一瞬思ったが、きっと気のせいだと自分に言い聞かせた。たまたま偶然が重なっただけだ、と。
その時のおれはそう思っていた。
それが違うと気付くのはもう少し後の話。
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