▽ 03
「家まで送ってくよ」
「え、そんなの悪いよ!」
学校を背にしながら夏目くんと談笑していると、彼は突然そんな提案を持ち掛けてきた。急な話に私は慌てて遠慮すると、もう少し名字さんと話をしていたいんだと嬉しい事を言ってくれた。
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
…しかし、こんな短い間で夏目くんと仲良くなれるなんて思ってもみなかった。なんだか田沼くんみたいで喋りやすかったからかな?なんて考えながらふと、あるワードが私の頭をよぎった。
「ねぇ、夏目くん」
「なに?」
「妖怪っていると思う?」
えっ!と過剰に反応した夏目くんに内心驚きながら、こんな阿呆らしい質問をしてしまって申し訳なくなる。
「いやー、小さい頃に良く妖怪が出る絵本を読んでいたから」
ごめんね、変な質問しちゃってとおどけてみたけど、夏目くんは
「おれはいると思うな…」
と、ぼんやり呟くようにそう言った。でも直ぐに我に返ったように、あっごめん!可笑しな事言って…と気不味そうな表情を浮かべた。そんな夏目くんの姿に何故か笑みが溢れた。…やっぱり噂通り、夏目くんは謎めいた人だ。
「ううん、答えてくれてありがとう。でも、夏目くんも叔父と同じ事を言うなんて思ってもみなかったからびっくりしちゃったよ」
本当にびっくりした。まさか叔父と同じ返事が返ってくるなんて予想外だったし、きっと笑われるなと思っていたから。
「名字さんの叔父さんもおれと同じ事を言ったのか?」
「うん。何でって聞いたら、なんとなくって言われたんだけどね」
何でなんとなくなんだろうねーと笑うと夏目くんは、ふと考える素振りを見せると、良ければ叔父さんの名前教えてくれないか?と私に尋ねてきた。
「確か、棗って名前だった気がする。いつもおじちゃんって呼んでたからあまり覚えていないけど…」
そして私は、あ!っと気がついた。夏目くんと同じ名だと。でも、何で叔父の名を知りたかったのか聞くと夏目くんは曖昧に答えた。それを不思議に思ったけれど、家に着いてしまったので詮索するのを止め、夏目くんに送ってくれたお礼を言った。あと、“さん”付けなしでという付け足しも。
「じゃあ、名字さ…名字また明日」
笑顔で手を振る夏目くんに、些細な物だがアメを渡して、ニコニコしながら自宅のドアを開け、ただいまと元気な声で家の中に入った。
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