▽ 02
大粒の雨が地面を削るように勢いよく降る。そんな風景を昇降口で小一時間ずっと眺めている。
「なんで傘、忘れるかな…」
携帯と時間のせいですっかり傘の事を忘れてしまい、そのまま学校へ向かってしまった自分。もし朝の自分に会えるのなら、しばきたいくらいだ。
ちゃんと傘を持ってきていた人達は、可愛らしい傘やシンプルな傘をさしながら帰っていき、傘を持ってきていない人達(主に男子)は、鞄を傘代わりにして帰って行った。
生憎、私の鞄は傘代わりにできる代物ではない。故に昇降口で一人雨がやむのを待っているのだ。
「暇だあー」
私はそう小さくぼやいてコンクリートの地面に座り込み、少し遠くにある水溜まりをぼーっと眺めた。
…そういえば、今日は田沼くんとこんな話をしたんだっけ。
「名字、さっきからどこを見てるんだ?」
「胸」
「む、胸!?」
「いやー、皆胸デカイなあっと思って」
「なんて所を見てるんだお前は…!」
「イヒヒヒ!見た目は女だけど中身はオヤジだから!」
「威張るな」
と言って田沼くんに頭を小突かれた。でも、田沼くんも時々変な所を見たりしているからお互い様でしょうって心の中で思っていた。
確か少し前に、クラスの友達が話していたけど、2組の夏目くんとやらも田沼くんと何処となく似ているらしい。何処かを見て顔を青くしたり何か言ったり少し不気味らしい。
だけど顔がなかなかの美形らしく、そんな不気味な行動をしていても謎めいていて乙なものだとか言っていた。
「傘、忘れたの?」
不意に声をかけられ、びっくりして顔を上げると、知らない男の子が居た。うんと返事をすると、おれも一緒。傘忘れたんだと彼は当たり障りのないような笑顔を私に向けた。
色素の薄いふわふわしたような、さらさらしたような髪でなかなかの美形。…この男の子どっかで見た気がする。確か田沼くんと時々一緒に居たような―…。
「ところで、君の名前は?」
私の名前を尋ねてきた彼に、考え事を中断して、名字 なまえですと礼儀正しく頭を下げる。
「名字さんか…。おれは夏目 貴志」
なつめ…?
「あぁ、君が噂の夏目くんか!」
「噂?」
「よく変な所を見てるって。そして美形という噂」
そう応えたら、夏目くんはちょっと複雑そうな笑顔で、そうなんだと笑った。
「私も変な所見てるからよく注意されるんだ。ただし、私の場合は胸だけどね!」
そう言って、あははと能天気に笑ったけど夏目くんは、む、胸?!と大きな反応を見せて驚いた。
「田沼くんと同じ反応だ!」
「いや、皆同じ反応をするよ。というか田沼と知り合いなのか?」
意外そうな表情を浮かべた夏目くんに私は、同じクラスで席が隣同士だから仲良しなんだと教えてあげた。
それから何故か田沼くんの話で盛り上がり、先生に早く帰りなさいと注意されるまで空が晴れている事に気がつかなかった。
「あ、虹だ!」
帰路の途中、空を見上げて虹なんて久しぶりに見たと呟けば、おれもだよと夏目くんが返してくれた。
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