あめと傘 | ナノ

▽ 14

「おはよう。田沼くん」

「おは、…どうしたんだ?暗い顔して」


田沼くんは私の顔を見るなりそう言って心配そうな表情を浮かべた。私は一瞬ドキリとしたけれど、はぐらかすように笑い席につき机に鞄を置くと、田沼くんにばれないよう小さく溜め息をついた。


今朝の夢と昨日の夏目くんの言葉のせいで気持ちが落ち着かないでいた。いろんな事が次から次へと起こるから頭が付いていけない。

ただ…分かったことは、叔父が話してくれた昔話は叔父自身の話で、私の夢に出てきたあの女の人は、叔父がずっと想い続けていた人だという事。
確かな確証はないけれど今朝見た夢と夏目くんの言葉がそう物語っていた。



『五月雨はずっと君の叔父さんを探していると思う』


もし、夏目くんのあの言葉が本当なら、私は叔父との約束を果たさなければいけない。


『お前がもし、叔父さんの事をずっと待っている人に出会ったら、こう伝えてくれないか』


彼女に伝えなきゃいけない。


『          と、』


叔父の想いを。


でも、夏目くんが別れ際に言った“時間がない”ってどういう事なんだろう。それに何故夏目くんは叔父と“五月雨”に関して何か知っているような口振りだったのだろうか。
夏目くんは、一体…。



「…!名字!!」

「うわ!!」

「もう放課後だぞ」

田沼くんの言葉にびっくりして窓の外の景色を見ると、外はすっかりオレンジ色で夕日が眩しかった。それに目を細めていると、田沼くんは、名字と私の名を呼んだ。


「今日の名字は変だ。朝から暗い顔だったし、一日中上の空だった……。もし何か悩み事があるなら話して欲しい。無理にとは言わない。でも一人で抱え込んで欲しくない」

そう言って田沼くんは眉を八の字にした。その優しい気遣いに思わず言葉が詰まってしまった。
田沼くんの気持ちは凄く有難い。だけど私の周りで起こっていることは奇怪な事ばかりだ。夢の件はまだ良いけれど、昨日の事を話してもきっと田沼くんには理解して貰えないだろう。それに話しても話自体が御伽噺の様で、虚言だと言われるかもしれない。

そんな気持ちの迷いで視線を下に向けると、

「そんな顔をさせたかった訳じゃないんだ」

と田沼くんは困ったように笑った。


……正直な気持ち、田沼くんに話を聞いて欲しいなと思う。でもやっぱり気味悪がられてしまったり、嘘をつくなと言われてしまうのは辛い。……だけど話すことによって、この不可解な出来事に新たな糸口が見つかるかもしれない。



「……」


私は意を決したように、ふーっと深呼吸をすると口を開いた。



「実は………」



―――……



「……という訳なんです」

私たち以外誰も居ない放課後の教室で、昨日の下校途中に起こった事から夏目くんと話した内容、そして今朝の夢の事まで田沼くんに話した。ちなみにあの猫の話はしていない。信じて貰えないだろうし言ってはいけないことだと思うからだ。

私は田沼くんの様子を伺う様におずおずと視線を上げると、田沼くんは成る程…と顎に手を当てていた。
私はそんな彼の様子にびっくりした。端から聞けば、可笑しな事を言っているに違いないのに田沼くんは何でそんなに普通なのかが分からない。

「私の話、嘘だと思わないの?」

そう尋ねてみると田沼くんは嘘偽りのない顔で、あぁと頷いた。

「名字は嘘つかない奴だって知ってるからな」

彼のその言葉に目頭が熱くなった。
何処まで良い人なんだ、田沼くんは!
私は目頭の熱さを抑えるように拳をぐっと握ると、鼻からゆっくりと深く息を吐き出した。

「……ありがとう、田沼くん」

「?、何か言ったか?」

「ううん、何でもないよ」

私は本当に良い友人に恵まれている。



「…にしても偶然が重なり過ぎてるな。偶然というよりも、必然のような…」

一先ず学校から出た私達は、帰路の田んぼ道を歩きながら、一連の出来事について考えた。田沼くんの言ったように私もこれらの出来事は偶然が重なり過ぎていると思う。

出来事のきっかけは叔父との思い出の夢。そこから夏目くんと出会い、女の人の夢を見て今に至る。まさか、死んだ叔父が私を五月雨という女の人へと導いているのだろうか。

「いやいや、ないない」

奇怪な出来事のせいで思考回路が可笑しくなっちゃってるな、これ。叔父が導いているって、そんな事あるはずがない。
ぶんぶんと頭を振っていると、田沼くんがどうした?と不思議そうな顔で此方を見てきたので私は慌てて、何でもないよと笑った。


「ところで首を絞められた時、多軌から貰ったお守りはちゃんとつけていたのか?」

「ううん。ベッドに掛けてある」

「……は、い?」

田沼くんは唖然とした顔で、“はい?”という言葉を吐き出した。そんな彼の様子に、えっ何でそんな態度なの?と頭の中でクエスチョンマークを浮かべながら、

「え、あれってドリームキャッチャー的な悪夢を見ないお守りじゃないの?」

と尋ねた。実際、あの面妖なお守りをベッドに掛けてから滅多にあの女の人の夢を見なくなったし…。

私の言葉に田沼くんは驚愕した表情を浮かべると、ハァ…と盛大な溜め息をつき項垂れた。

「…これからは肌身離さず、持っていてくれ」

「わ、わかった」

ちゃんと説明しとくべきだった…と項垂れたままの田沼くんに、すみませんと恐縮した。

prev / next
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -