あめと傘 | ナノ

▽ 12

「聞いてくれてありがとう。夏目くん」

夢に出てくる女の人に覚えがあるなと頭の片隅で思っていたけど、夏目くんの話と猫のおかげで思い出した。私が見た夢の人は叔父が昔話してくれたお話の女の人と特徴が一緒だ。何故特徴が一緒の女の人を夢で見たのかわからないけど、でも何か縁(えにし)を感じる。身の回りの不思議な事や叔父を思い出すような夢がそう示しているようにも思えた。
暮れていく眩しい夕焼けが染める茜色の空を仰ぎ見ながら、ふとそんな事を思った。
そういえば、いつぞやの時もこんな夕焼けの下、叔父と共に歩いたっけ。叔父は他県に住んでいたから夏休みしか会えなかった。だから叔父が遊びに来た時は毎日のように遊んでいた。


「…名字、その叔父さんは今は何処に?」

「私が8歳の頃、この梅雨の時期に事故で死んじゃったんだ」

「あ…、ごめん…」

気まずそうに目を反らす夏目くんに苦笑いを浮かべた。もう8年も前の事だから、今はそんなに悼む事はなくなった。だけどやっぱり少しだけ哀しいかな。

「…私ね、小さい頃雨が大好きだったんだ。だけど今は雨が降ると少しだけ憂鬱になる…」

明日は雨が降るのだろう。燕が低く飛んでいる。私は情けない顔を夏目くんに見られないように、前髪を弄った。


「そう言えばさっき、私に関係してる的な事を言っていたけど、どういう事?」

暗くなってしまったこの場の空気を変えるように、明るい顔で夏目くんに訊ねた。でも夏目くんは、口を開かない。

「夏目、くん?」

「…まだ名字には話せない」

「なんで…」

「おれはまだ彼女の話を聞いてない。だから勝手な憶測を名字に話す事は出来ない」

だけど…と夏目くんは言葉を繋いで、間を置いた。

「…五月雨はずっと君の叔父さんを探していると思う」
夏目君の言葉に、ドクンと心臓が鈍い音を立てた。
五月雨。微かに覚えている。その名を。雨が降る度、叔父が愛おしそうに切なそうに、その名を呼んでいた事を。

「…ちゃんと整理がついたら、名字に必ず言うよ。君が知らなくちゃいけない話だと思うから」

夏目くんはそうぽつりと呟くと、黄昏時の夕日に目を向けた。

「…天気予報では梅雨の時期はもうそろそろ終わるらしいんだ。…残された時間はあと僅かしかない」

そう言った夏目くんの言葉がやけに重く感じて、怖かった。
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