▽ 08
学校のチャイムが遠くの方で聞こえた。
眩しい夕焼けが帰路の田んぼ道をオレンジ色に染め上げ、私の影が長細く道に伸びながら私の歩幅に合わせて揺れ動く。
そんな人気のない道を鼻歌歌いながら歩いていると、ざああっと強い風が吹いた。
最近、私の身の回りでよく突風が吹く。
透がくれたお守りのお陰で女の人が泣いている夢を見る回数は大分少なくなったけれど、代わりに身の回りで変な事が頻繁に起こるようになった。
さっきの突風や背筋の寒気、よく何かに躓いて転けるとか。
変なのー、なんて考えながら林の前の曲がり角を曲がろうとしたその時、
「ぐぅあ」
叔父から貰ったネックレスが、後ろから“何か”に引っ張られるように突然私の首を絞め始めた。
息が出来ない!
そうもがきながら、これ以上首が絞まらないよう首とネックレスの間に指を入れる。
そして、薄く開いた目で曲がり角にあるバックミラーに目を向けた。
でもそこには、私以外“何も”映っていなかった。ただ、もがき苦しむ私だけが映っている。
訳が解らず混乱する私に追い討ちをかけるように、先程よりも首が絞まり始めた。
「っく、あ…」
もう駄目だ…。
そう思った瞬間、
一瞬風を切るような音がした。と、同時に首の絞まりが消え、私は力なくその場にしゃがみ込み、喉を押さえて咳き込んだ。
「大丈夫かい?!」
目線を上げれば、帽子と眼鏡をした男の人が慌てた様子で駆け寄ってきてくれた。
「は、い…」
少し枯れた声で頷き痛む首元を優しく擦る。
「君、今のに心当たりは?」
「今、の?」
上手く喋れない事にもどかしさを感じながら首元を押さえ、首を傾げた。
「(視えてないのか…)」
帽子を被った男の人は考えるように顎に手をあてて此方を見る。
「あ、の…」
「あぁ、ごめんね!」
男の人は我に返ると私に手を差し出して立たせてくれた。
「痛そうだね、」
眉をしかめながら私の首元にそっと触れると小さく何かを言った。聞き取れなかったけど、きっと私に言ったんじゃないなと直感的に感じた。何でかわからないけど。
「一人で帰れる?」
男の人の気遣いにコクリと頷く。じゃあ気を付けてね、と優しく微笑む男の人に頭を下げ、去って行く背中を見送った。
男の人が去った後、何で首が絞まったんだろうかと小首をかしげながら傷む喉元をもう一度なぞるように擦ると、襟首辺りでかさっと小さな音がした。
「?」
何だろうと音がしたモノを摘まむと、千切れた小さな人型の紙切れだった。
「何、これ?」
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