うたた寝
「先生、今日も長閑ですね〜」
「どこがだ!」
俺の家の縁側でぬくぬくと日向ぼっこをしているなまえに、思わず突っ込みを入れた。
どう考えても長閑じゃない!
家の中で暴れ回るなる達を横目見ながら頭を抱える。俺に習字を教えて貰うために来ているというのに、すでに目的から外れて遊んでいる。ここは、お前らの遊び場じゃない!と何度怒った事か…。
「うわぁぁぁぁ!」
「なる!今度は何をした!」
突然声を上げたなるに素早く反応すると、そこにはやっちゃったという表情を浮かべながら墨汁のせいで、真っ黒に染まった両手を此方に向けるなるの姿があった。被害を食らったひなの顔や腕にも墨汁がベッタリとついていて、今にも泣きそうだ。
「あぁ!!もう、今すぐ洗ってこい!!」
なる達にそう命令すると、常備してある雑巾取り出し、あとが残らないように机や畳に飛び散った墨汁を拭い取る。
「くっそー!中々落ちん!」
墨汁のしつこさに悪戦苦闘しながら、色んな所に飛び散った墨汁をひたすら拭いていると、ふと視界に縁側が映った。そこには、すでに墨汁の汚れを落としきったなるとひなが二人揃ってなまえの横に座ってぽけーっと空を見上げていた。
何休憩してんだ!と怒っても馬耳東風を決め込むなる達。そんなちびっこ二人に呆れた俺は大きくため息をつくと、再び汚れ落としの作業を始めた。
一通り綺麗にした後、もう一度縁側に座っているメンバーに目を向けると、今度は三人揃って首をコク…コク…と小さく揺らしながら寝ていた。
「……、」
正直腹が立ったが、大人気ないぞ!俺!と怒りを抑える。しかしまあ、座ったたまま寝るなんて器用な奴等だ…と呆れつつ俺も縁側に腰掛けた。
「確かに長閑だな…」
腕を支えに少しもたれながら昼間の空を見上げる。田舎はいろいろ不便で大変だが時間が過ぎるのがゆっくりで、何だかんだ居心地が良い。
「ん、」
小さく息を漏らしたなまえの方に目をやると、なまえが徐々になる達の方に倒れ始めていた。このままじゃちびっこ二人が潰されてしまうと思い、なまえの肩を支えそのままゆっくり床に寝かす。ついでに座ったまま寝ているなる達も床に寝かした。
そして、疲れたー!と言って息を吐きながら俺自身も縁側に寝転がった。
「ねむ、」
小さくそう呟いて体を横にする。視界には、なるひななまえが寝顔をさらけ出しながら眠っている姿が映る。
…もし俺が、家族を持っていたらこんな感じなのだろうか。
そんな事を考えながらうつらうつらする瞼と頭に誘われ、俺もゆっくりと眠りについた。
縁側の君とうたた寝
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