痕跡
「此処は、何処なの…?」
目覚めたら知らない所に居た。一面草花で満ちていて、蝶がひらひら舞っている。
いつ、こんな所に来たんだろうか。
さあっと青嵐が私の髪を撫でる。
靡く髪を押さえながら、ふと下を見ると真選組の制服が一着私の膝に掛けられていた。それを手に取ると微かに煙草の匂いがした。この制服は土方さんのね、なんて思いながらそれを持って立ち上がる。そして一度周りを見渡して考える。土方さんは、何処にいるのだろうか。
耳を済ませば、草花が揺れる音に混じって川のせせらぎが聴こえた。そちらに向かえば、小さな小川が草原の間に流れていた。透き通った水の中では小さな魚が流れに逆らって泳いでいる。人差し指でその水面に触れると、魚は何処かに行ってしまった。
「なまえ」
名前を呼ばれて顔を上げれば、向こう岸に土方さんや近藤さんや沖田くん達が居た。
「皆、そっちに居たのね」
真選組の皆を見つけて安堵した瞬間、強い風が私を襲った。あまりの強さに閉じてしまった目を開け、彼らに目を向けると、
「っ!」
そこは血の海だった。
青々しく咲いていた草花達も透き通っていた小川も血に染まり、近藤さんや土方さん達は血を流したまま動かない。
「い、や…ぁ」
震える私の肢体。止めどなく溢れる涙。
「あ、あああああ」
「…なまえ!!」
銀時の声が頭に響く。
ゆっくり目を開けば、眉に皺を寄せている銀時が目に入った。
「ぎ…ん、とき」
「何か嫌な夢でも見たか」
「だ…い丈夫よ、」
銀時は眉をしかめたまま暫く黙っていると、突然がああっと頭を掻き荒々しく私の手を掴んだ。
「震えが止まるまで側に居てやっから!」
だから泣き止め!彼は投げやりにそう言うと、もう片方の手で乱暴に私の目尻を拭い抱き締めた。
気付けば小刻みに震えている私の肢体。
ぎゅっと私の手を包む大きくて温かい手に心を落ち着かせながら、彼の首元に頭を寄せた。
(お前の涙は見たくねぇ)
涙の痕跡
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