寸止め技
重たい書類を抱えながら施設内を歩き回る。
齋藤コーチが書いた地図が大雑把に書かれていて、今何処にいるのかもわからない。むーむー唸りながら歩き回っていると、
「うはーっ、めっちゃおもろいわ!!」
明らかに聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「金太郎くん?」
「!、なまえ姉ちゃんやん!久しぶりやなあ!」
元気良く此方に手を振る金太郎くん。別のコートを見れば越前くんも居た。そして、相手コートには小春くん並みに老け…大人びている赤毛の男子と、長身のイケメンな男子が居た。
どうやら私は試合の邪魔をしてしまったようだ。
「姉ちゃん良かったらワイらの試合見てってーや!」
いや、私には仕事が…と断ろうとしたが金太郎くんは聞く耳を持たずに私の腕を引っ張る。そして、私をベンチに座らせるとコートに戻って行き、試合を再開した。
私は彼らの試合を観戦して改めて思う。
いつ見ても彼らのテニスは私の知ってるテニスと違う。私の知ってるテニスはパコパコ打ち合うものだけど、彼らのテニスはなんか…怖い。そんな事を考えていると、
「なまえさん!」
越前くんの少し高めの声が耳に入った。えっ、と彼の方を向いた瞬間、ボールが目の前に……。
私は反射でぎゅっと目を瞑った。
でも、痛みはやってこない。
私はゆっくり目を開くと、目の前の光景に驚いた。だって顔ギリギリにラケットがあるんだもの。しかも、ボールが未だにガット上でクルクル回転している。視線をラケットの主に向けると、
「…大丈夫か?」
「し、静ちゃん…」
こんな時でも私の声アンテナが反応するなんて自分凄いわあっと思いながら、口をポカンと開けてただ呆然と黒髪の彼を見つめた。
(…、俺は静ちゃんという名前じゃない)
寸止め技
おまけ
「あのすみません!イー〇ーヤよォって言って下さい!もしくは悪魔でも執…痛ぁぁぁ!!」
何故か足をつった。痛む足を押さえながら顔を上げると、書庫と書かれたプレートが目に入った。
(あ!書庫あった!)
×
徳川をどうしても出したくて…
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