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生け贄の彼女


開いたドアの向こうには、腹を抱えて笑う白石くん達が居た。

「開けゴマって…ぷはっ」

未だ笑い続ける彼らに、顔を赤くしながら頭をしばく。

「ほら、持って来たで!」

ん、と小春くんにスーツケースを差し出すと、彼は何故か浮かない顔を浮かべる。小春くんにどうしたのと尋ねてみれば、

「ユウくん来てないんよー」

と彼は眉を八の字に下げながら、はあとため息をついた。私は無言で白石くんの元に歩み寄り、両手で彼の胸ぐらを鷲掴みした。

「ユウくん来てないってどういう事や!二人のために、このスーツケースを持ってきたんやで!?」

しかも、ここまで来るまでどんだけかかったと思ってんじゃァァァ!と言いながら激しく彼を揺さぶる。だけど、小春くんがあたしが悪いんよーと泣きながら止めに入ってきたから、ちっと舌打ちしてヤツから手を離した。


「…このもやしが」

「何か言いはりました?」

「イイエ、ナニモ」

棒読みで白石くんにそう言うと、私は小春くんにスーツケースを渡して背負っていたリュックを背負い直し手を上げた。

「いろいろ腹立つけど、私の仕事は終わったさかい帰るわ。交通費は後日きっちり貰うから」

白石くんにそう強調しながら指を指すと彼らに背を向け、門を出ようと歩き出した。でも、

「…」

足はしっかり動かしているのに全然前に進まない。ただ、リュックが私の肩に食い込むだけ。

「何帰ろうとしてはるんですか?」

顔だけ後ろに向ければ、爽やかな笑みを浮かべた白石くんが私のかばんを掴んでいる。何かもう嫌な予感しかしない。

「今日一日だけU-17で雑用係やって貰うんで、帰ってもろたら困るんですわ」

「 は い ?」

一瞬頭が真っ白になった。何を言うかと思えば、一日だけ雑用係ってどういう事だ。意味がわからん。

「門開けるのと引き換えになまえさんをU-17のコーチの雑用係に回す事になってしまったんですよ」

「いや、意味がわからん。まずなんで門開けるのと引き換えなん?鬼畜か、鬼畜プレイが好みなのかこのU-17の関係者は」

なんで、態々大阪からやってきた私が雑用係を押し付けられなきゃならんのだ。普通労うべきだろう。

「まあでも、もう帰れませんけど」

白石くんの声に反応して門に目を向ければ、先程まで開いていた門が今はぴっちりと厳重に閉められていた。

(私の意思は?!)

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