「名字、消しゴム2こ持ってないか?」

「あるよー。でもレンタル料金は高くつきますからねぇ」

「じゃあ遠慮しとく」

「嘘だって!」


そう言って田沼くんの男らしい大きな手のひらに消しゴムを乗せてやる。それをぐっと握り、ありがとうと笑う田沼くんに私も笑顔になる。
彼が転校して来たての頃は、あまり田沼くんに好印象は持たなかったけれど、仲良くなると田沼くんは本当にいいやつだ。風邪を引いたらわざわざ見舞いに来てくれるし、困った時とか助けてくれる。でも、田沼くんと仲良くしていると友人達によく勘違いされる。なまえって田沼くんと付き合ってるの?って。それはないけど、きっと田沼くんを彼氏にしたら大切にしてくれるんだろうなと思う。

「名字?」

「田沼くん、あんた本当に良いやつだよ」

「何だ?急に…」

と田沼くんは驚いた顔を見せたけれど「俺も名字の事良いやつだと思ってるよ」と言って笑った。



……そう言えば田沼くんは最初の頃、あまり笑顔を見せなかったなあ。


―――――…………



「皆、転校生がこのクラスに来るらしいぞ!」

「まじか!女子なのか?!」

「残念。男だ」

「嘘だろぉぉぉぉぉぉ!」

「男子だって!イケメンかなあ!」

「ないって!でも来るなら名取周一くらいイケメンが良いなあ!」

「それ思う!」



学校にやって来て早々、クラスメイト達のテンションの高さに驚いた。何でそんなにテンション高いんだと思ったら、どうやら転校生が来るらしい。しかも男子。女子なら話し掛ける準備をしておこうと思ったけど、男子なら……まあいいや。なんて思いながら席に着くと、丁度先生と黒髪のなかなか美形な男子が教室に入ってきた。皆は慌てて自分の席に着席し、女子達は小さくざわめきたった。

「えー今日は転入生を紹介する」

「田沼要です。よろしくお願いします」

髪が漆黒のように黒いせいか、私の中の田沼くんの第一印象は暗い印象だった。それは皆一緒だったらしく女子達は「美形なのに勿体ないね」と嘆いていた。私もそれに共感した。こう言う場合は宝の持ち腐れと言うんだっけ?馬鹿だから分かんないや。



「席替えをするぞー」

約1ヶ月後、大分クラスに慣れてきた様子の田沼くんを見て先生は席替えを提案した。窓際の端の一番後ろが良い!と願いながらクジを引く。小さな紙に書かれた数字を見た瞬間、私は喜んだ。見事に願った場所が当たったからだ。友人と少し離れてしまって悲しかったが、それは仕方がないと腹を括った。

机を移動させ席につくと、隣は田沼くんだった。宜しくと笑えば田沼くんは、あぁと軽く微笑んだ。笑ったら素敵なのに勿体ないなあっと思いながら私はある事を決めた。田沼くんを笑顔で素敵な美形くんにするんだ!と。それからの私は毎日田沼くんに挨拶をしたりしょっちゅう話し掛けたりした。でもやっぱりよそよそしい対応で、壁を感じた。
それに少し哀しくなったが、なまえよ!諦めるな!と心を燃えたぎらせ、意気込みを強くした。それを見ていたクラスメイト達や先生までも、私の熱意を感じ取り温かい目で私の行動を見守っていてくれた。

その甲斐あってか、田沼くんは日に日に打ち解けてきてくれ、よそよそしくない純粋な笑顔を見せるようになった。最初は近付きにくそうにしていた男子達も明るい雰囲気を纏い出した田沼くんに打ち解け、一緒に行動したり遊んだりと交友関係が広がっていった。

今じゃ田沼くんは悩める男子達のお悩みを聞く立場に昇格している。お坊さんの息子だからきっと包み込んでくれる温かさがあるんだろう。



「成長したね、田沼くん…!」

「さっきからどうしたんだ?名字」


(要が成長して、母さんは嬉しいよ…!…母さんじゃないけど!)
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