「お父さんとお母さんの昔の話、何か聞かせてよ」

何もする事がない休日に、母と縁側でお茶しながらそんな事を言ってみた。
母は私の言葉に、はっ?と呆けた顔をすると、いきなり何よ!と照れだした。

「何で照れるの!…そういう話聞いた事ないなと思ったから聞いただけ!別に答えたくなかったら答えなくて良いから」

「良いわ。折角だし答えてあげましょう」

なんて満更でもない顔で母は話し始めた。



「お父さんとお母さんは、高校時分から8年間付き合って24歳で結婚して、お姉ちゃんが生まれなまえが生まれたの。
そこまでの道のりは険しかったわ。何度別れの危機があったか!一番危なかったのは………、あの時かしら…――」



――…なまえの知っている通りお母さんは、昔ここに住んで居たんだけど、17歳の時、両親の仕事の事情で他県に引越しする事になったの。その時、大学生だったお父さんとどうするか酷く揉めてしまった事があったのよ。

遠距離は無理だ。だけど別れたくない。

そんな矛盾で揉めてる最中にね、棗…あなたの叔父さんは私達の喧嘩に乱入して、こう怒鳴ったの。

たかが遠距離じゃないか!どんなに離れていても会えば、お互い触れ合える。笑った顔も怒った顔も自分の目で見れる!それだけでも幸せなのに…っ、僕の前で贅沢を言わないでくれ!って、泣きながらそう言ったわ…。

私達は唖然とした顔で棗を見たわ。棗は今どんな恋愛をしてるんだ…って呆気に取られた。そして、目が醒めたの。私達は何て下らない争いをしてたんだろうって。
たかが遠距離されど遠距離だけど、こんなちっぽけな壁私達なら乗り越えられる。今までそんな壁、軽々と乗り越えて来たじゃない!だからきっと大丈夫!
そう思わせてくれたのよ。

案の定その壁は乗り越えられたし、お父さんと夫婦になって、あなた達が居る。


「…今思うと、お父さんとお母さんが夫婦になれたのは棗のお陰ね」


と言って、目を細め懐かしむ様に空を見上げる母を見て、何だか胸がきゅうっとなった。



「なまえも早く良い人見つけて、早くお母さん達に孫の顔見せなさいよ!」

と私を見て口角を上げる母に、「気が早すぎ…」と呆れながらも取り敢えず頑張ると笑ってみた。
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