白髪の王子様
うっすらオレンジ色が残る藍色の空には、月と星が徐々にハッキリ見えるようになってきた。

「ねえ、山田くん。何処に向かってるの?」

放課後、一緒に帰る約束をした山田くんが突然、行きたい場所があるからと言って私を連れて学校を出た。

ずんずん進む彼の歩くペースが速くて、ついて行くのがやっとだ。しかも、何故かどんどん山奥に入って行く。

「ねえ、山田くん!」

「いやあ、今日はびっくりしたよ」

山田くんは急に立ち止まって笑顔で此方を振り返った。その笑顔に何故か寒気がした。

「名字から妖怪の臭いがするなんて」

「はっ…?」

息が止まった。彼の唐突過ぎる言葉に頭がついてけない。

「俺が最初に君に目を付けていたのに、何処の誰だか知らない妖怪の臭いをさせちゃって」

嫉妬しちゃうな〜と彼は口だけ笑った。目は全く笑ってない。

「何言ってるの?」

「何処の誰だ?俺の獲物に手を出した奴は。許せないな」

ゆっくりと此方に歩み寄る山田くんに一歩一歩後ろに下がる私。

「まあでも、これ以上君に触れさせないように、今すぐ君を食べてしまおう」

彼はそう言って、にやりと笑い舌舐めずりをする。

「じょ、冗談は止めてよ」

「冗談じゃないさ」

がしっと手を捕まれた。抵抗するけどビクともしない。恐怖でみるみる体に力が無くなっていく。

「そんなに怯えなくても大丈夫だよ。すぐにそんな気持ち、なくな…」

山田くんの言葉を遮るように突然、目の前に何かが割り込んできた。


「てめぇか…最近俺のシマを荒らしてる奴ぁ」


白と黒の髪が特徴な彼が私を背に回す様に山田くんと向き合っていた。

「嗚呼、君が奴良リクオか。君のシマを荒らしてしまった事は謝るよ。でも、その女は返せ」

獣のように低く唸る山田くんに肩が上がる。本能的に食われると確信した。リクオくんの広い背中に隠れるように縮こまり、怖さを紛らわすように彼の着物をきゅっ掴んだ。そこに二つの影が現れた。

「リクオ様!ここは私達にお任せを!早くその娘を安全な所に」

「さあ、早く!」

リクオくんを護るように山田くんに立ちはだかった髪の長い女の子とマフラーを巻いた男の子はリクオくんを促した。

「すまねぇな。つらら、首無」

彼は二人にそう言うと、私を抱えて跳ねた。ゆるい浮遊感が私を襲う中、視界の端で一瞬山田くんが見えた。でもそれは山田くんの面影なんてない気味が悪い物体だった。私は小さく身震いをして、リクオくんにしがみついた。



知らない場所に着地すると私は力なく座り込んだ。そして、未だ混乱している頭の中を整理するように深く深呼吸をした。

「山田くん…妖怪だったんですね」

「あぁ、最近俺のシマを荒らす奴が居ると思ったらソイツだった」

「あの二人は?」

「俺の優秀な部下さ。アイツなんかに負けたりしねぇ」

安心しろと彼は微笑み、私の頭を掻き撫でると、どかっと私の前に胡座をかいて座った。

「にしても、胸騒ぎがして来てみれば……。まあ何ともなくて良かったよ」

「助けてくれて本当にありがとうございました」

彼に深々と頭を下げる。もし、彼が助けに来ていなかったら今頃私は…。そんな事を考えると背筋が凍る。

「良いさ。お前が無事だったらそれだけで良い」

優しく微笑む彼に、胸が一瞬高鳴…。



いや、待て私。高鳴るって………、


………き、きっとアレだ!
危険な目にあった時に異性と居たら胸が高鳴って惚れてると誤解するアレだ。

いやいや、惚れてるって何を?


「うわああ!」

もう訳が解らず、混乱してぐああと頭をぐしゃぐしゃに掻いた。そんな私の気持ちを知ってか知らずか、リクオくんは私の腕を掴み、どうしたんだ?と顔を覗いてくる。

というか、顔が近い!

ますます熱くなっていく顔を隠したいが、リクオくんに両手を掴まれているから隠せない。恥ずかしい!恥ずかしい!と心の中で叫びながら羞恥を隠すように目を瞑った。


「あと、もう一押しだな」

「え?」

彼の嬉しそうな声に目を開き間抜けな声が出た。一押しって何がだ?と首を傾げながら、手を離して下さいとお願いした。


無自覚な彼女と、計算高い彼

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