彼の匂い
「名字、おはようってもう昼前か」

その台詞を言った友人はこれで何人目だろうか?

「はよーござーます」

私は雪崩れ込むように机に倒れた。

「珍しいな、お前が遅刻なんて」

隣の席の山田くんが面白そうに口角を上げた。
彼は先月この学校に転校してきた男の子で、名は山田太郎。典型的過ぎる名前とは裏腹に、顔が俗に言うイケメンで女子達にモテる。そんな彼と気軽に話せる関係の私は、女子達によくこきを遣われる。山田くんに手紙を渡してくれやら、メアド聞き出せやら何やら。

「なあ、名字」

「んー、何?」

机にうつ伏せ状態だった私は、ダルそうに上体を起こすと思わず退いた。山田くんの顔がもの凄く近くにあったからだ。

「な、何?!」

「お前、」

どんどん顔を近付けてくる山田くん。そして、私の首元に鼻を近付けると、すんすんと匂いを嗅ぎ始めた。

「お前、よ…か…匂いがする」

「え、よ……何?」

「いや、何でもない」

そう言うと、彼は爽やかスマイルを浮かべ、私から離れた。

「そうだ!今日一緒に帰らないか?」

「別に構わないけど…」

「約束な!」

彼は嬉しそうに笑った。

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