「ない!ない!ない!!どこにもない!!」

机の引き出しや箪笥の中を探しても、ありとあらゆる物を退けても見つからない。私の大事な大事な……。

「どうしたんですか?」

「桃太郎くん…!」

薬草の入った籠を両手で抱えた彼の有名な桃太郎くんが不思議そうに此方を見ていた。

「まさか、桃太郎くんが?!」

「いや、驚かれても何の事かさっぱりなんスけど」

首を傾げる桃太郎くんに、白々しい!惚けるな!と威嚇すると桃太郎くんの肩に誰かの手が乗った。

「桃タローくん知らないの?なまえちゃんの大事な大事な勝負下着が盗まれたんだよ」

「は?」

「違うわ!!!」


ーーー……


「へえー。鬼灯さんから貰ったネックレスを無くしたと」

「無くしてない!誰かが盗んだんだよ、きっと。私が鬼灯様から貰ったものを無くすはずがないもの…。

てか、その顔やめてよ桃太郎くん!」

にやにやと笑いながら、成る程ねぇと顎を摩る気持ち悪い桃太郎くんに、苦虫を噛み潰したように顔を歪ませた。ちなみに白澤さんは机の上で胡座をかいて、つまらなさそうに口を尖らせている。

「別にあんな奴から貰った物を無くしたって良いじゃないか。なんなら僕が買ってあげるよ」

「良くないです!それにいりません!」

折角…、折角鬼灯様から貰ったプレゼントなんだ。絶対に盗んだ奴を締め上げてやる…!
ギリっと奥歯を噛み拳を握りしめていると桃太郎くんが、一旦落ち着いて下さいと宥めてきた。私はギロッと桃太郎くんを睨んだけど深く息を吐いて力を抜いた。

「で、最後にネックレスを見たのはいつなんスか?」

「昨日の晩。ちゃんといつもの所にしまった事もちゃんと憶えてる」

「じゃあこの店の誰かですね」

桃太郎くんはぐるりと店の中を見回した。この店の中には私と桃太郎くん、白澤さん。あと、修行中の薬剤師である兎さん達がいる。でも兎さん達はシロだ。可愛いし、そんな事するはずない。
残るは桃太郎くんと白澤さんだけど、話をしてみると桃太郎くんは何だかシロっぽい。だとすると、一番怪しいのは白澤さんだ。

「白澤さん、犯人は貴方ですね!」

「何その刑事ドラマ的なノリ。証拠は?」

「消去法で辿ると白澤さんになりました!」

「証拠でも何でもないじゃん、ソレ!」

「兎に角!部屋を探らしてもらいます!」

「んーまぁ別に良いよ。気が済むまで探しなよ。僕の部屋からは見つからないと思うけどねー」

そう言ってヘラヘラとした笑みを浮かべて手を振る白澤さんに、ムッときながら、桃太郎くんも手伝って!と桃太郎くんを呼ぶと、彼は渋々という感じで立ち上がりチラリと白澤さんを見た。

「(やっぱり白澤様が犯人だな。この人もホント素直じゃないんだから)」

なんて事を桃太郎くんが思っていたなんて露知らず、私は白澤さんの部屋へと向かった。


ーーー……


「ない!ない!ない!!どこにもない!!」

「ないッスねー」

「桃太郎くんちゃんと探してる?!」

「探してますよ」

白澤さんの箪笥の中を探っている桃太郎くんをチラリと見て、チッと舌打ちした。
白澤さんの部屋に無いとしたら、犯人は一体誰なんだ!
むしゃくしゃしてありとあらゆる引き出しの中身を床にブチまけた。桃太郎くんに、ついに気が触ったんスか?なんて失礼な事を言われ、近くにあった桃のクッションを彼にぶん投げた。桃太郎くんは、痛っ!と小さく悲鳴を上げると部屋から出て行き、そんな桃太郎くんといれ違うように今度は白澤さんが現れた。

「やっぱり見つからなかったでしょ?」

「…何でそんなに笑顔なんですか」

目を細めてニコニコしている白澤さんを睨んだけれど、やめた。この人を相手にしている時間がもったいない。

嗚呼、でもどうしよう…。本当に見つからなかったら……。鬼灯様になんて言えば……。

急に不安が押し寄せて、ペタンと床にへたれこんだ。そして顔に手を覆い、どうしよう……と言葉を漏らした。

「だから僕が買ってあげるって」

「それじゃあ意味ないんですよ。恋焦がれる方に貰わなきゃ……」

脳裏に鬼灯様の顔が浮かんだ。
彼は私の働いている天国とは正反対の地獄で、閻魔大王様の下で働いている。ドSとか冷徹なんて呼ばれているけれど、女性にとてもモテる。長身だし、美丈夫だし、華奢に見えて実は筋肉質で力もある。それに閻魔大王様の第一補佐官というポスト。女性にモテないはずがない。

そんなモテモテの鬼灯様が私にネックレスをプレゼントしてくれたのだ。それを、私は……。


「……ねぇ僕じゃ駄目?」

「…何がですか?」

「なまえちゃんのこい……ぐふっ!!」


突然、白澤さんが宙を舞った。

その光景に目を見開いたまま喫驚していたら、

「全く。店内に居ないと思ったら。一体何をしているんですか」

「鬼灯様!!」

金棒を肩に担ぎ、鋭い眼差しで白澤さんを見る鬼灯様が部屋の入り口に立っていた。

「何でお前がいるんだよ!」

「薬を買いに来ただけですよ。
しかし何故なまえさんがこんな汚い男の部屋に居るのです?」

「そ、それは……」

鬼灯様に貰ったネックレスを探して…、なんて言えない。私は思わず口を噤み、目線を下に下げた。

「何かコイツとやましい事でも?」

「ないです!!百歩、いや一億歩譲ってもありえません!!」

即答した。それ僕に失礼じゃない?なんて言われたけど、鬼灯様に誤解されるぐらいなら迷わず上司である白澤さんをも蹴り飛ばす。

「なら安心しました」

「え?」

聞き間違い、だろうか?今、鬼灯様が“安心した”って……。

「ところで、今日は身に付けて下さっていないのですね。私がプレゼントした金魚草のネックレス」

鬼灯様は自分の首元をトントンと指を指して首を傾げてきた。その姿にキュンっと心高鳴らせながらもネックレスを無くしてしまった罪悪感に苛まれた。

嘘をつこう。なんて思ったけど、鬼灯様の仕事柄か嘘はすぐバレるだろうし嘘をついたら嫌われてしまうかもしれない。そんな事になるくらいなら、正直に話す方がまだましかもしれない。

私はグッと拳を握り、口を開いた。


「実は……、今朝から見当たらないんです」

「犯人に心当たりは?」

「え、私が無くしたと思わないんですか?」

てっきり、どこで無くしたか心当たりは?と聞かれると思っていたのに。

「貴女が無くすわけないと分かっていますから」

「鬼灯様っ…!」


「けっ!気持ち悪!僕の部屋で勝手にいちゃつかないでくれる?」

鬼灯様に頬を染めていたら、空気を読まない…いや読めない白澤さんが、腕を組みながらぷくーっと頬を膨らませ、私の背後に立っていた。そして未だに床に座っている私を抱き上げ、立たせた。

「お前が来るなんて今日はホント厄日だよ」


忌々しそうに顔を歪めた白澤さんは、ほら、薬作るの手伝ってと私の腕を強引に引っぱった。けれど、もう片方の腕を鬼灯様にぐっと掴まれた。それに喫驚して掴まれた自分の腕を見て、睨み合う二人を交互に見上げた。

「…ちなみにコイツの身体検査も行いましたか?」

白澤さんを睨み続ける鬼灯様の問いに首を振ると、鬼灯様は、そうですかと低く呟き私の腕から手を離すと、ジリジリと白澤さんに近付き始めた。

「なまえさん、そのままソイツの腕を掴んでて下さい」

「え、あっはい!」

鬼灯様の言われた通り、私の腕を掴んでいた白澤さんの左腕を今度は私が掴み返し、捕獲した。白澤さんは、掴んでくれてるのは嬉しいけど、ちょまっ!と意味のわからん事を言って近寄ってくる鬼灯様に尻込みしている。内心鬼灯様と近づけるなんて羨ましいなって思っちゃったりなんちゃったり。

「ちょ、ホント近寄るなよ!僕は男に体を触られる趣味なんてないよ!」

「私もそんな趣味ありませんよ」

そう言って鬼灯様は白澤さんの白衣のポケットから白衣の下のチャイナ服のポケットまで探り出した。白澤さんはくすぐったいのか、ちょ止めっ!ブハハハと悶えている。その姿に呆れた視線を送りながら白澤さんの腕を逃がさないようにギュッと抱き締める。白澤さんがチラリとこちらを見た気がしたけど多分気のせいだろう。

「ありました」

「えっ!」

白衣の内ポケット(あの給食エプロンみたいな服に内ポケットなんてあったんだ…)から手を出した鬼灯様の手の中には鬼灯様から貰った小さな金魚草のシルバーのネックレスがあった。


「………………おいコラ白澤、」

「な、なに?なまえちゃん…」

「てめぇ…何でこんな事した?アァ?」

白澤さんの腕をこれでもかと掴みながらガンを飛ばすように睨み上げる。それにビクッと震えた白澤さんは冷や汗を浮かべながら顔を青くした。

「や、やだなー!ただの悪戯だよ。いつも大事そうにしまってたからそんなに大事なのかな?って……えへ」

「……鬼灯様、その金棒を使ってアイツの大事なやつぶっ潰して下さい」

「分かりました」

「え、ちょ、それ本気で…ってぎゃあああ!!」

「逃げないで下さい。じゃないと怪我しますよ」


泥棒つかまえました


金棒を持った鬼灯からぎゃあぎゃあ逃げ回る上司を見て桃太郎は思った。

「(白澤様は不憫な人だなー)」

と。

「(折角俺がなまえさんと二人っきりにしてあげたのにな…)」


×
白澤→主→←鬼灯
てな感じです。
ちなみにネックレスは首輪。ブレスレットは手錠の意味を持っているらしいです。指輪は……忘れました(笑)
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