「やあ、」
「うっわー…」
「人の顔を見て早々、嫌な顔しないでくれよ」
「凄くが抜けてる。凄く嫌なの」
心底嫌な表情を浮かべながら、うげっと私より身長が高い周一を見上げる。いつにも増してキラキラオーラが強烈だ。帽子と眼鏡で“一応”隠しているようだけど、だだ漏れだ。道行く人はチラチラと周一に目を向け、ぼそぼそと「あれ、名取周一じゃない?」と呟く。それを待ってましたと言わんばかりに奴は、帽子と眼鏡を外し営業スマイルを女性達に披露し始めた。
こうなると非常に面倒臭い。
道行く女性達は立ち止まり、口々に
「きゃーーっ!名取周一よ!!」
と黄色い声を上げ、頬を染める。
「握手して下さい!」
「はは、勿論。君たちのような可愛い女性の手を握れるなんて幸せだ」
胡散臭い笑顔を振り撒きながら、女性達の手を握る周一に盛大な溜め息をついた。やつは一体ここに何をしに来たんだ。囃し立てられに来たのか。
私はもう一度大きく溜め息をつくと、止めていた歩みを進めた。本屋に行くつもりだったのに周一のせいで足止めを食らったわ。ショルダーバッグの紐をぎゅっと握り、ずんずんと進む。
「待ってよ」
「待たん。つか、付いてくんな!」
女性達から抜け出し私に追い付いて来た周一は、当たり前のように私の横に並び、吐息を洩らした。
「ハァー……、何で君はそんなに私の事が嫌いなんだい?」
「胡散臭いから」
「…あの猫ちゃんと同じ事言うね」
「?」
「何でもないよ」
へらりと微笑む周一に、怪訝な表情を浮かべながら首を傾げていると、急に手首を掴まれた。
「何!?いきなり…」
「彼処の喫茶店で一緒にお茶しようよ」
「…いつの時代のナンパだよ」
古臭い誘い方に半目で周一の事を見たが、手を離さない様子なので離せー!と腕を離すように自分の腕を引っ張る。だけどびくともしない。これが女と男の差か…と痛感した私は、仕方ないので付き合ってやる事にした。
「周一の奢りだから」
「勿論」
―――…
「ねぇ、良いの?」
「何がだい?」
「人気俳優がこんな一般人とお茶してて。写真に撮られちゃったら不味くない?」
「いや、寧ろ好都合だよ」
頬杖をついてにっこり笑う周一にげんなりする。危機感を持てよ。てか好都合じゃないよ。こっちは不都合なんだよ。アンタとの写真が撮られちゃ。後々面倒臭いんだよ。
そんな私の気持ちも露知らず、周一は色んな話をし出した。ドラマの話や(どうでもいい)近況報告とか。それに適当に相槌を打ちながら、運ばれてきた紅茶とケーキに手をつける。
「ねぇ。ちゃんと聞いてる?」
「うん聞いてるよ。相変わらず眩しいね、周一」
「あはははは、そう?煌めいてて…ごめん」
「うん。一回黙ろうか」
視線をケーキに向けたまま冷たくそう言い、紅茶を口に運んだ。…ここのケーキ美味しいな。また今度一人で来よ。なんて事を考えていたら、周一がまた急に私の手を取り、こう言った。
『人は情熱を火にたとえるけど私の気持ちは正しくそれだ。君への想いが募るあまり、自身まで焼きつくしかねないよ』
歯の浮くような事を平然と言う周一に唖然とした。何を言っとるんだ。この馬鹿は。
「…何か、アンタの頭が可哀想過ぎて、前が霞んで見えないわ。つか本気で焼き付いてくれ。そして灰になってくれ」
私は周一から手を抜き取り、また紅茶を口に運んだ。
(
毒舌彼女は食えない女)
台詞:確かに恋だった様より