万事屋晋ちゃん2
また子達に留守を頼み、俺は依頼人――なまえとなくした銀釵を探す事にした。

「多分、あそこでなくしたんだと思うんです」

なまえが指を指した場所は路地裏。細長い階段が一つあるだけの唯の建物と建物の間の道だ。だが俺の胸に何かが引っかかった。その引っかかった“何か”に疑問を抱きながらなまえにいろいろ質問をする。

「アンタはここで何をしてたんだ?」

「それが覚えていないんです」

「は?」

「ただ覚えているのは金髪の髪だけで…」

なまえは路地裏をじっと見詰めて眉をしかめる。

「その金髪に心当たりは?」

「良いのか悪いのか、何人も居ます。それにこのかぶき町はホストの街…金髪の人は幾らでもいます」

俺は思わず舌打ちをした。それに対しなまえは、すみません…とうつ向く。

「そのなくした銀釵はそんなに大切なものなのか?」

「…はい」

頷き真っ直ぐな目で俺を見たなまえの頭に手を乗せ、俺が見つけてやると宣言した。そんな俺になまえは嬉しそうに、ありがとうございますと笑った。

「兎に角、お前の心当たりのある金髪をあたるぞ」

そう言ってなまえの手を掴んだ。その瞬間、瓶が飛んできた。俺はそれを素早く木刀で叩き落とし飛んできた方を睨む。

「すみませーん。手が滑っちゃって」

そこには、憎たらしい金髪パーマの野郎がヘラヘラとした表情を浮かべながら、両手を上げていた。悪気はないんですとでも言うように。

「あら金さん」

「なまえちゃんじゃん!奇遇だねぇ」

白々しくなまえとの再会に喜ぶ野郎はチラリと此方に目を向けてきた。

「隣の野郎は、」

「彼は万事屋晋ちゃんのオーナー晋助さん。なくした銀釵を一緒に探して下さってるの」

「銀釵?…あぁ、もしかしてこれのこと?」

野郎はポケットに手を突っ込むと一つの釵を取り出した。

……何だ?この蟠り。

見知らぬ筈の釵を食い入るように見る。……何処かで見た気がする。そんなモヤモヤする気持ちに苛々しながら二人の会話を眺める。

「それです!でも何で金さんがそれを?」

「やっぱりなまえちゃんのだったのか!この間、そこの道端で拾ったんだよ」

どうぞ、と笑った野郎に白々しくて気持ち悪ィと思った。恐らく依頼人が見た金髪はコイツだろう。そして銀釵を盗んだのも。

「あ、そうだ。俺がこれ付けてやるよ」

野郎はなまえに渡そうとした銀釵をぐっと握り微笑む。良いわよと遠慮するなまえを良いから良いから、と押さえつけ背後に回った。俺に不敵な笑みを浮かべて。


「すまねェな、手が滑っちまった」

その顔が癪に障わり、野郎がなまえに触れようとした瞬間を狙って木刀を投げた。それにすぐ反応した野郎は、ヤロー…!とこめかみをヒクつかせる。

はっ、この俺と殺ろうってんのか?こっちは暗殺稼業をしてんだ。どこぞのホストに負ける気はしねェ。

「喧嘩は江戸の華ってか」

「上等だ」

片方しか腕を通していない袖から腕を抜く。そう言えば、俺こんな着物持ってたか?“万事屋晋ちゃん”という名にも今更ながら違和感を覚える。それに、目の前の野郎となまえと銀釵にも。知らない筈なのに何故か知っている感覚に囚われる。

…まあ、そんな事は今はどうでも良い。ただ目の前の野郎を潰したくて体が疼く。

俺は木刀を握り、野郎は傍にあった鉄の棒を握ってジリジリと間を詰める。

次の瞬間、木刀を野郎の腹目掛けて振り下ろした。勿論、野郎も同じ様に。


「銀時 晋助!止まりなさい!」


なまえの言葉に体が勝手に固まった。

野郎と木刀の間はほんの僅か。

「…喧嘩するなら小太郎と辰馬の所に行ってくるわよ」

声を低くしてそう言ったなまえの言葉に肩がピクリと微かに動いた。
ヅラと辰馬の所に行くという事は、暫くの間俺達と一言も口を聞かないという事。

「…ちっ」

「わーったよ」

俺達は渋々腕を下ろし、銀時と距離を置いた。それを見たなまえは、宜しいと満足げな表情を浮かべ、笑った。

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