魔法の言葉
古びたアルバム番外



「また記憶喪失ゥゥゥ!?」

新八の大きな声が病室に響き渡った。

「今回も怪我は大した事なかったんだけどね、記憶がポローンっとね。まあ、すぐ戻るでしょう」

「ハァ…」

「銀ちゃん思い出すアル!」

視界の端では神楽が記憶を失ってボーとしている銀時の頭をバシバシと容赦なく叩く。新八は慌てて神楽の行動を止めながらベッドに座る銀時を見つめた。




「おやまあ、また記憶喪失かい」

お登勢は、タバコの煙を吐き出し銀時を一瞥した。

「この方は?」

「この人は大家さん兼スナックお登勢のママ、お登勢さん。隣に居るのが従業員のたまさんとキャサリンさんです」

「お登勢さん、たまさん、キャサリンさん…」

復唱しながら覚える銀時に、お登勢はあんぐりと口を開き指で挟んでいたタバコを落とした。

「…まっまあ、また江戸の街をブラブラしてくると良いさ」

そう言うとお登勢は従業員の二人を連れ店の中に戻り、万事屋一行は彼女に言われた通り江戸の街をブラブラする事にした。

新八と神楽は取り敢えず長谷川、源外、桂…今まで銀時と関わってきた人達に会わせてみたが、銀時は覚えていないと首を降るばかり。喫茶店でパフェを食べさしても少しは手応えがあったが、やはり記憶は戻らなかった。

「あ、そう言えば真選組に行ってなかったですね!」

「なまえのご飯食べたいアル!」

「なまえ?」

「さっき会った桂さんと同じく、銀さんの昔からの友人ですよ。兎に角、真選組に行きま…」

「あら、三人共こんな所で何しているの?」

新八の言葉を遮るように声が割って入った。三人は視線をそちらに向けると、そこには買い物袋を手提げたなまえが居た。

「なまえさん!」
「丁度今から新八くん達にご飯を作りに行こうかなって思ってた所だったの」

「僕達も丁度なまえさんに会いに行こうと思っていた所なんです」

それは奇遇ねと微笑むなまえに神楽はお腹が減ったネー!と抱き着く。

「じゃあ、今から万事屋にお邪魔して良い?」

新八と神楽はニッコリ笑って頷いた。




「何か手伝いましょうか?」

台所で忙しなく動くなまえに銀時は声をかけた。

「あ、銀時!じゃあお鍋見ててくれる?」

そう言われ銀時は鍋の前に立つ。グツグツと肉じゃがの煮が揺れ、美味しい匂いが漂う。

「魚ももうすぐ焼けるし、ご飯も炊けた…。あとは、肉じゃがをもう少し煮込むだけね」

銀時は、顎に手をあて一人呟く彼女の姿をじっと見つめ少し痛む頭を軽く触った。

「…そんなに見られると照れるわよ」

銀時の方を見てクスッと笑ったなまえは、鍋に蓋をし火を調節した。

「本当に記憶喪失なのね」

「…すみません」

謝る銀時に、なまえは笑い出した。

「ごめんなさいね、笑っちゃって。でもホント可笑しくって」

彼女は肩を揺らしながら目尻に浮かべた涙を拭く。そして、銀時の右頬に手を伸ばしこう言った。

「例え記憶が飛んでも、銀時は銀時。ゆっくり思い出せば良いからね」

ニッコリと微笑むなまえを見た瞬間、銀時の頭の中で似たような台詞を言われた事を思い出した。

「白夜叉と恐れられていたとしても、銀時は銀時!何があっても私の友達よ」


“あの時”と同じように木の枝がざわざわ揺れる感覚が銀時を襲った。
銀時は、目の前のなまえを見つめると、彼女の頭に手を置き笑った。

「…なまえありがとよ。オイ、新八ィ神楽ァお膳運び手伝えー!!」

なまえは一瞬目を丸くしたが、ふふっと笑いお皿の準備を始めた。


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