■ 坂田と私のきっかけ

「っしょっと。あーやっと出られた」

ダンボールから出てきた銀さんは、そう言って私の目の前で大きく伸びをした。私はただただ呆然と立ち尽くすだけで、今の状況を全く理解出来ないでいた。頭の中が真っ白でなのある。

「茶、ある?喉乾いて仕方ねぇんだよ」

そう言って呆然と立ち尽くす私を余所に勝手に人ん家の冷蔵庫を漁り出す銀さん。


「何時まで突っ立ってんだ?座れよ」

冷蔵庫から取り出したペットボトルのお茶を片手に我が物顔で我が家のソファーに、でんと座る銀さんに唖然となりながら促されるままソファーに腰を下ろす。銀さんは私が座ったことを一瞥して確認すると、ペットボトルのキャップを開けお茶を飲み始めた。ちなみに言うと、それは私の飲みさしで所謂関節キスとなる。普段の私なら、赤面し動揺しているだろうが今の私はただの脱け殻だ。口をポーカンと開けたマヌケな顔のまま、お茶を飲む度動く彼の綺麗な喉仏を眺めるだけだった。

「ぷはーっ!うめぇ!これが酒ならもっとうめぇのになァ」

そう言って銀さんは飲みきったペットボトルのキャップを閉めガラス張りのローテーブルの上に、とんっと置いた。


「………」

「………」

「………」

「…何時になったら喋んだよ。オメーは」

無言の中、痺れを切らした銀さんは呆れを孕んだ声でそう言い、紅色の気だるそうな瞳で私を捉えた。

「……あ、の」

銀さんと交わした“ど、どうも”の下りから一言も言葉を発してなかったせいか、最初の言葉が思ったよりも掠れてしまった。それを恥ずかしく思いながら、私は言葉を続けた。

「な、なんで坂田銀時さんが私の家に…?」

「やっぱそこ突っ込んでくるか。…まアー、簡潔に述べると二週間休暇を貰ったから適当に泊まりに来たってとこだ」

その“適当”が何故私の家だったのかが分からないんですけど…。

大体私と銀さんの接点なんて一切ないし、私が一方的にテレビを通して彼を知っているだけであって知り合いではない。しかもここは“銀魂”の撮影が行われるかぶき町とは大分離れた場所にあるちいさな町だ。銀さんと私がすれ違う、なんて事はかぶき町周辺に住んでない限り恐らくあり得ないだろう。


「ま、細けェ事は気にすんな。オメーはある程度俺の事知ってんだろうし、二週間宜しくな」

銀さんはそう言ってローテーブルの上に置いてあったテレビのリモコンを取ると、テレビをつけた。丁度かかった番組が銀魂で、もうエンディングだった。そのエンディングも終わり、CMを挟むといつも通り次回予告が表れた。でもそれはいつもの予告とは異なり、黒背景に赤字で“二週連続放送休止!!”と筆ででかでかと書かれた画像だけがテレビに映し出されていた。


「………」

それを銀さんが意図的に見せたのかは解らないけれど、私は悩ましげにこめかみを押さえた。
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