「ぶえっくしょい!」

なまえが大きなくしゃみをした。そんななまえに対して、もう少し女らしいくしゃみをしたらどうなんだと鈴木がボソッと小言を洩らした。

「なぁに?鈴木は私に女の子らしくなって欲しいのぉ?きもぉい」

ね、奥さん?と俺に引っ付いてくるなまえの声は鼻声で、いつもに比べて何だか少し弱々しかった。少しね、少し。しかし、なまえの体熱いな…。

「風邪引いたっぽいね。ほらマスクして」

ちょうど俺の家で集まっていたので、引っ付いていたなまえを引き剥がし、使い捨てマスクを取りに行った。鼻声で、流石オカンなんて聞こえたがスルーしておいた。

「はい。てか風邪なら家に帰る?」

「やだ。もう少し居る」

そう言ってまたスッと俺に引っ付くなまえ。何だろ、やっぱ風邪だからいつもより気持ち悪い。なまえが甘えてくるなんて超巨大隕石が降ってくる並に稀だよ。ま、でも風邪引くと人肌恋しくなるしね。それに、甘えられる自体そんなに嫌じゃないし。
よしよしと頭を撫でてやると、前髪とマスクの間から覗く目が気持ち良さそうに細まった。

「親子みたいだな」

「そこはフツー、恋人同士みたいって言うでしょ」

「やめろよ。佐藤が可哀想だろ」

「ムキーーーッ!何それ!どういう意味だよ!つかその目が更に腹立つ!何その“お前頭湧いてんじゃねぇか?”みたいな目!!」

キーキー猿みたいに怒るなまえだが、鼻声なせいで威力が三分の二に落ちている。それが可笑しくて笑うと、なまえはむすっとした顔で俺から離れた所に座った。

「ごめん遅くなった」

玄関から平介の声が聞こえたと思ったら、なまえはさささっと玄関に向かい、薬局の袋を手提げて戻ってきた。

「何それ」

「こっちくる序でに平介に冷えピタ買ってきてもらった」

なまえはガサガサと冷えピタの箱を取り出し、一枚取ると額にぴたっと貼った。うん、似合ってる。

「ついでにプリン買ってきたよ。みんなの分もある」

俺達は平介からプリンとスプーンを受け取ると蓋をべりっと剥がし、一口口に運ぶ。甘くて冷たいな。

「なまえこれ食べたら帰りなよ」

黙々とプリンを食べ続けるなまえにそう声を掛けると、へーいと気の抜けた返事が返ってきた。

「俺らに風邪菌移すなよ」

「オマエ禿ゲロ」

「こらこら」

いつも通り喧嘩する二人を宥めていると、平介になんだかお母さんみたいだねと言われた。なりたくてなってるわけじゃないよ!