夢うつつ | ナノ

何だかんだ言って?

………はぁ…。最近、自分の存在意義が分からなくなってきた。華子ちゃんにうはうはな皆に、私はどうしたら良いのだろうか。いや勿論、私も華子ちゃんにうはうはしていますよ。あんな出来の良い子そう居ないからね。気立ては良いわ、家事は何でも出来るわ可愛いわ。文句の付けようがない。これで性格が悪かったり猫被りだったら私はムキーッてなってただろうけど、華子ちゃんは本当に良い子なのだ。この間とか私のためにワンホールケーキ作ってくれたし。彼女は例えるなら、ハイジだ。汚れを知らない女の子。…そう見たらどんだけ自分は汚れてんだって話になるけど。……自己嫌悪になるわ。

そのせいかは分からないけど、最近三次元ではちょっとグレ気味になっている。友達に焼きそばパン買って来いよと言ったり、親や先生にケッと悪態ついたりと、ちょっとグレ気味だ。でも最終的には友達に生意気言うなバカチンが!と締め上げられ、親や先生には熱でもあるのか?と心配された。…切なくなった。



ふと、俯いていた顔を上げて周りの景色を眺めてみると、何処かも知らない川原に辿り着いていた。後ろを振り返ってみたらターミナルが少し小さく見え、随分と長い距離を歩いてきた事が分かった。自分は知らない内にどんだけ歩いていたんだと、吃驚したけれど自覚を持ったら急に足がだるくなり、私はそのまま川原に座り込み、雑草をぶちぶち抜き始めた。



「愛されキャラ、か…」

愛されキャラとは、文字通り皆に愛される子の事を言う。天然キャラ然り、美人可愛いも然り。その点、私は顔もパッとしないし、やることなすことも女の子らしくない。うら若き乙女と言われる(…言われないか)女子高校生がこんな事で良いのだろうか、ってぐらい女の子らしさに欠けている。自分で言うのも何だが。


「はあぁあ…」

盛大な溜め息を溢し、私の手によってハゲかけている川原の雑草に虚ろ気な視線を送った。嗚呼、この抜け落ちた雑草はまるで私のようだ。なんて深いブルーに入っていると、キャンキャンと犬の鳴き声が聞こえた。私は俯いていた顔を上げ声の方を見ると、川にプラスチックの容器がぷかぷかと浮いているのが見えた。容器は危なげに浮き沈みしていて、その中には尻尾を垂れさせながら助けを求めるようにキャゥンと鳴いく子犬がいた。私は慌てて川のほとりに近付き靴と靴下を脱いだ。(ちなみに初めてトリップしてきて以来ずっと制服だ。何故なら私も銀さんもお金がないから着物が買えないのだ。だからよく他人にコスプレだと勘違いされる)そして、川の中に足を踏み入れた。ゴツゴツした石のせいで足に地味に痛みが走るが、それを我慢しながら膝までかかる水の中を走り子犬が入った容器を追いかけた。だけど、浅くて流れの速い川瀬だから子犬との距離が中々縮まらない。



「っ!?」

大きく一歩足を踏み出した瞬間、大きな石で足を滑らしてしまった。
そのまま大きな水音をさせ川の中で思いっきり尻餅をつき、苦痛に顔を歪ませた。悶えるような痛みに堪えながら、なんとか立ち上がるとビショビショになって重たくなったスカートに苦戦しながらまた子犬を追いかけた。その度にさっき石で滑ったせいで挫いたらしい右足がズキズキ痛む。最悪だ。でも今更子犬を見捨てる、なんて事は私には出来ない。


「届けぇぇぇぇ!!」

子犬との距離があと少しの所で、私は思いっきり腕を伸ばした。でもその伸ばした手は届かず宙をかき、代わりに

「ぐふっ」

子犬が私の顔に飛び込んで来た。それに面を食らった私はもう一度尻餅をついた。

「〜っ!」

また食らった悶えるような鈍い痛みに悶えながら、濡れた手で未だ私の顔から離れない子犬を掴んだ。

「良かっ、たぁあ…」

悄気てたはずの子犬の尻尾は元気そうに左右に揺れ、わんと高く吠えた。可愛らしいな、オイ。なんて思ってたら、

「わんっ!」

目の前の子犬じゃない、聞き慣れた犬の声が聞こえた。声の方を見ると、

「なまえっ!」

定春くんに乗った銀さんが私の名前を呼んだ。銀さんは私を見つけると定春くんから飛び降り、私の元まで駆けてきた。勿論、元だから川の中。


「銀さん濡れちゃ「この大馬鹿娘!!」ったァー!!」

脳天に拳骨を食らった。あまりの痛さに涙を浮かべながら、子犬を抱いていない方の手で頭を押さえた。

「何で行き先を言わなかった!?こっちがどれだけ心配したと思ってんだ!テメェは…!!」

眉間にマリアナ海溝のように深い皺を寄せた銀さんがまるでお父さんのように大きな声で私を叱る。それに自然と肩を縮こませながら子犬を抱き締めた。


…黙って家を出たのは悪いと思ってるけど、でも銀さん達が悪いんじゃないか。皆して、“華子ちゃん、華子ちゃん”って。私だって構って貰いたいんですよ。雑な扱いでも笑えるんなら構って貰いたいんですよ!

って心の中で言い返してるけど、銀さんの前では押し黙ったまま。

私はズピッと鼻を啜った。


「…別に私の事なんか、ほっときゃあ良いじゃないですか。可愛い可愛い華子ちゃんが居るんだし……」

まるで、妹に父母の愛情を奪われ拗ねて嫉妬している子どものようになっているけど…仕方がない。だって構って欲しかったんだもん。

「……はぁ…。ったく。何でこー俺の周りにはまともな女はいないんだろうなァ」

銀さんは呆れた声でそう言うと、抱き締めていた子犬を私の腕から奪った。

「帰ェるぞ。馬鹿娘」

銀さんはそう言って私に背を向け、子犬を抱いたまま岸に上がった。


「あー、あとな。華子の事だが、拾ったっつってたが、ありゃあ嘘だ。親と喧嘩して家出したつーから保護しただけだ」

銀さんの突然の言葉にポカンとなった。そんな私に見向きもしないで銀さんは、此方に背を向けたまま子犬を地面に下ろした。


「今日、アイツの親御さんが迎えに来て一緒に帰ってったよ」

銀さんはそう言うと此方を振り返り再び川に入ると、ばしゃばしゃと水音をさせながら乱暴に私の所までやってきて、私を俵抱きにした。川くせぇなんて酷い事言われたけど何もいわなかった。

そのまま定春くんの背中に乗せられると、銀さんは着物を脱いでそれを私に被せた。

「大体俺は犬とカラクリとお前を拾って定員オーバーだ。バカヤロー」

着物の上から私の頭を叩くと、銀さんは足元に居た子犬を見下ろし、お前もご主人様のところに帰りなと子犬に向かってそう言った。子犬は応える様にワン!と高く吠えると太陽に向かって駆け出した。自然と子犬が駆け出した方向に視線を向けると、子犬が向かう先に小さな女の子が居た。ポチー!と子犬の名を呼ぶ声が此処まで聞こえてきて、あの子犬に飼い主が居たことに安堵した。というか私ん家の犬と同じ名という事に驚きだ。まあ、メジャーな名前だから普通なんだろうけど。


「…帰ェるぞ、馬鹿娘」

銀さんは子犬と飼い主の女の子を見てもう一度そう言った。

「うん」

…あと、ごめんなさいと小さく謝ったら銀さんは宜しいと言って私の頭を二度ぽんぽんと叩いた。



Q、何だかんだ言って?

A、銀さんは優しいです!



「あ、靴忘れてきた」


×
川の中に入る場合は靴のまま入りましょう。
書いてる途中それに気付きました……。
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