そうね、ルッツが私より大きくなって、強くなったら守られてもいいわ。 そう言って笑っていた彼女を思い出して、懐かしい気持ちに浸る。昔は大きい存在だったのに、いつの間にかこちらの方が追い抜いてしまった。 彼女はあの約束を覚えているだろうか。車とは違う高い位置から見える町並みを眺めながらゆっくり息を吐く。操縦士がもうすぐ目的地に着くことを知らせた。 彼女はきっと、冗談だったのに、と顔を赤くするだろう。昔の約束なのだから忘れてくれた方がよかった、と。 少し遠くに赤い屋根の家が見えた。緩む頬を引き締めて、襟を整える。
「……よし」
ここで待っていてくれ、と言った俺に対して応援の言葉を口にした操縦士に礼を言い、地面に降りる。今までにない緊張に震える手でドアベルを鳴らし、そわそわと相手が出るのを待つ。 程なくして開いたドアから顔を覗かせた彼女が、きょとんとした表情で俺を見て、更に後ろにある馬車に目をやって。思い出したのか、ぼん、と音が聞こえそうな勢いで赤くなった。
―あの日の約束―
(迎えに来た。俺と結婚してくれ、なまえ) (…覚えて、たんだ)
2011.09.30 めもから
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