たまには甘えたって






ドアノブをひねってみると、簡単に室内に入ることができた。いつものことながら無用心で困る。何かあったらどうするつもりなのだろうか。
自分の体調を気にしない彼のことだ、何の処置もせずに寝っ転がっているのだろう。思った通り、ただ寝っ転がっているだけだったギルベルトに冷却シートを渡し、部屋を見渡す。
部屋は異様なほどに蒸し暑かった。雨が降っているからか窓が開いていない。いつだったか、部屋に水溜まりができていた、と話していたのを思い出す。少し工夫すれば、雨なんて入ってこないものだ。窓を開けてまわって、彼のもとへ戻る。

「…何してんの」
「…動きたくねえ」

壁に寄りかかって気だるげに目を閉じているギルベルトに前髪を上げておくように言って、ぺたりとシートを貼る。思っていたよりも熱が高い。
新しく2枚シートを出して渡すと、潤んだ瞳に見上げられた。


「なにに使うんだ、これ」
「腋の下か内股に貼ってくれる?」

この方が早く熱下がるから。
早く下がる、という言葉がよかったのか、のろのろとした動きで自分の腋の下に冷却シートを貼り、布団をかぶる。

「あっちの部屋、行ってようか」
「………」
「ここにいる?」

こく、小さく頷いた彼に、珍しいね、と笑いながら隣に寝転がる。
医者ではないから大したことはできないけれど、隣にいることくらいはできる。
程なくして聞こえた寝息に暖かい気持ちになりながら、早く治るように祈りを込めてお気に入りのクッションを抱き締めた。




─たまには甘えたって─
いいと思うの

(いなくなったりしないから、安心して寝てよ)


2011.08.17
実話。むしろ今。

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