天井を背景に、怒ったようなフランシスが見えた。ベッドに勢いよく倒れたせいで、頭がくわんくわんする。
「俺、言ったでしょ。襲われるかもしれないよって」 「そんなことも言ってたね」
そう、フランは私に何度も何度も言っていた。けれど、それを言われても気にせずに毎回こうやって彼のベッドではしゃいでいるのは私なわけで。 そろそろ本気で怒られるかな、とは思っていたけど、この展開は予想外だった。
「いい加減にしないと、ほんとに襲うよ?」 「そっか」
かみ合わない会話に、フランシスが視線を右にずらして小さく息を吐いた。怒っているときの癖だ。少しだけ、怖くなってきた。 ベッドについているフランシスの腕に手を添える。ぴく、と相手が反応したのがわかった。
「襲えばいいじゃん。わかって来てるんだよ、私」
愛を向けたり、向けられたり、そういうことに敏感な彼のことだ、言外に告白の意味をこめている、ということに気づいているだろう。 私だって、彼が幼馴染以外の目で私を見ていることに気がついている(まあ、ギルちゃんに教えてもらったんだけど)のだから、彼がこちらの好意に気づいていないはずがない。 私たちはただ、こわいのだ。これ以上の関係になれば、きっと今までの幼馴染という居心地のよかった感じが壊れてしまうような気がして。一度変わってしまったら、もう戻ることができない気がして。 ふと、触れていた彼の腕が震えていることに気がついた。 それを知らないような声音で、彼に告げる。
「あのさフラン」
すきだよ。 ぽた、雫が落ちてきて。頬に落ちてきた生ぬるいそれが、外気に触れて冷たくなり、私の頬からベッドへと流れていく。 どうして、と小さな声が聞こえた。どうしてもこうしてもない。腕を伸ばして涙を拭う。
「フランは私のこと嫌い?」 「どうしてなまえは、そういう意地悪な聞き方するんだろうな」
嫌いなわけない。 フランシスの指先が私の前髪を横に流す。壊れものを扱うかのような仕草を笑ってやると、彼もどこか困ったような顔で笑った。
─臆病で優しい恋─
(トーニョとギルにも、できるだけ早めに言わないとな) (どうして?) (可愛い幼馴染に悪い虫がつかないように、ね) (ふぅん、幼馴染…) (ああ違う違う、恋人だって!俺の愛しい恋人!)
2011.08.17
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