※アーサーがとち狂ってる
君のこと、連れ去ることができたらよかったのに。 泣きながら抱きしめられて、首輪と足枷に繋がった鎖が、じゃらりと冷たい音を立てた。 私がここにいるようになって、どのくらいの月日が経ったのだろう。日の光が届かないここにいると、時間の感覚が無くなってしまう。鎖に繋がれているからといって、不自由なわけではない。鎖は部屋を歩き回ることができるくらいには長いし、私をここに閉じ込めているひとは、毎日ここにきて食事をとったり、愛を囁いてくれる。 一体、それのどこに泣く要素があるというのか。確かに最初のころは不安で仕方なかったけれど、これも彼なりの愛情表現なのだと思えば、どんなに痛いことも、悲しいことも耐えられた。 だって、私たちは愛し合っているのだから。 未だに泣いている彼の義弟の背中をそっとさする。腕の力が、さらに強くなった。
「泣かないで、アルフレッド」 「…俺は君を逃がしてあげたいんだ」
こんなの、おかしい。 涙でぐちゃぐちゃの顔で私を逃がそうとするアルフレッドの手元を銃弾が掠める。彼が帰ってきたのだ。 急いで彼のもとへと走り、両頬にキスをして唇への口付けを請う。恋人同士がするそれのあと、アルフレッドを振り返った。
「ほら、アーサーは優しいでしょ?」 「何の話だ?」
呆然とするアルフレッドに、何もしなかっただろうな、と笑顔で問いながら銃を玩ぶ彼に、もう一度口付ける。アルフレッドは何が不満だというのだ。何もおかしくない、ただの一組の恋人同士の行為なのに。 見ると、また涙を流している。泣き虫な子。
「アーサー、俺は、君が嫌いだ」 「知ってるよ」
お前、なまえのこと好きだったもんな。 思い出話をするような口ぶりに、だったら、と口にしたアルフレッドに銃が突きつけられた。 だからだよ。優しい声が理由を紡ぐ。
「俺はお前も、なまえも、こんなに愛してるんだ」 「……狂ってるよ」
力なく頭を振ったアルフレッドが部屋を出て行く。何が正しくて何が狂っているのかわからない私たちは、いつものように顔を見合わせて呟いた。
─あの子にはまだ─
(早いのかもしれない)
2011.08.13 愛がわからない二人
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