「あああああ!ギルちゃん!!ギルちゃーん!!!」
暇つぶしに掃除でもしようかとソファから体を起こすと、聞き慣れたばかでかい声が響き渡った。世界記録も狙えるのではないかと思うくらいのダッシュでなまえの部屋に向かい、ドアを開く。
「どうした!?」 「ギルちゃん!」
助けて! 勢いよくタックルされて、うぐ、と情けない声が出たが、それをからかう素振りも見せずに涙を溜めた目が俺を見上げてきた。相当なことがあったらしい。手に汗を握りながら次の言葉を待つ。
「む、虫がでっかくて網戸なのに!!」 「やべえ何て言ってんのか全然わかんねえ!!」
完全にテンパっているなまえが何を言いたいのか俺に理解できるわけもなくて。とりあえず聞こえた「虫」という単語だけ聞き返す。 虫が、何だって?
「虫が!!網戸!!!」 「わかんねえよ!とりあえず落ち着けって!!」
ほら、息吸って、吐いて、もう一回吸って、吐いて。 深呼吸をしていくらか落ち着きを取り戻したなまえがふと窓を見て、あ、と声を漏らした。静かな湖水のような空気を纏って、俺を見上げる。
「虫、外出てったわ。んで、ギルちゃん用無しになった。ごめんね」 「マジお前何なの」
あまりのやるせなさに涙が出そうになった夏の日だった。
─気まぐれレディ─ こんなやつの相手できんのなんて俺らくらいだろ。
2011.07.30 こんな不憫なギルちゃんが大好きです
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