「あ、おいしい」
っていうか、こういうとこは私じゃなくて彼女と来なよ。 ボロネーゼを口に入れたなまえが冗談めかして微笑んだ。おいしい店を見つけたんだ、とどうにか口実を作ってこうして会ったのに、彼女には一ミリたりとも伝わっていないらしい。いつものように、眉を下げて笑ってみせる。
「彼女なんていないよー」 「うっそだー!あ、じゃあ好きな人いるんでしょ!その人がイタリアン好きとか!」 「あー、うん、そうなる、かな」
その好きな人はなまえだけど、多分(いや絶対)わかっていない。 こっそりと溜め息を吐いて、ワインを喉に流し込んだ。今日こそ、気づいてもらおう。
「あのさ!俺」 「不安にならなくてもフェリなら絶対大丈夫だって!優しいし、センスいいし」
違う!! 自分のことだとは微塵も思っていないなまえがばっきりと俺の振り絞った勇気をへし折る。泣きそうになりながら、もう一度ワインを煽った。そろそろ気づいてもらわないと困る。何に困るかはわからないけれど、すっごく困る。
「ね、早く告っちゃった方がいいよ?」 「なまえ!!」 「ん?」
勢いよく立ち上がったせいで、フォークが音を立てて落ちた。少し離れた位置にいるウェイターも、近くのテーブルのカップルも、周りにいる人みんながこちらを見ている。 落ち着いてよ、困ったようにたしなめてくるなまえの肩を掴む。
「俺は、なまえが──」
─目の前にいるんだ─
(好きなんだ!) (え、ええと、友達として?) (違うよ!女の子として!)
2011.07.26
メモから抜粋。 奥手なイタリア男は好きですか。私は大好きです。
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