「ただいまぁー」 「おかえり…っくっさ!!酒くさ!!」
だってあいつらがなかなか帰してくれなかったんだもーん。 ぐでんぐでんに酔っ払ったフランシスが抱きついてきて、ソファが沈む。どれだけ飲んできたのか、恐ろしいほどに酒のにおいを纏っている。 飲み過ぎだよ、と声にする前に、唇が塞がれた。酔っているくせにやけに視点がはっきりしている。舌を入れられる前に慌てて体を離す。酔っ払いの行動はよくわからない。
「なまえー」 「はいはい、なまえですよー」
なおも抱きついてこようとする彼の頭を撫でて、反応を確かめる。一人で着替えることはできなさそうだ。
「好きだー」 「はいはい、私も大好きだよー」
ネクタイを外す作業は思ったよりも早くできた。日頃の練習(と、いっても、朝にちょっとフランシスのネクタイを整える程度だけど)のおかげだろうか。
「愛してるー」 「はいはい、私もおんなじ」
ぷちぷちとボタンを外す手を、彼の手がとった。仕方なく右手のみで作業をする。
「結婚しよう」 「はいは…え?」
酔っ払いの戯言だと思って流していたのに、やけに真面目な声でそう言われて、解放された左手の薬指に感じた無機質な冷たさに、手をかざした。銀色の指輪が蛍光灯の光を反射してきらきら光っている。
「…こういうの、素面で言ってよね」 「ほとんど素面だよ。ギルベルトにビールぶっかけられただけで」
それで、返事は? にっこりと笑った彼が、優しく問う。返事なんて決まっているのに。 だって私は、あの一言のためだけに酔ったふりをして、こうやって指輪をつけさせることに成功してしまうような、このフランス男が誰よりも大好きで、愛しくてたまらないのだから!
─じゅてーむ!─
(あ、誕生日おめでと) (…そうだったっけ?プロポーズするのに必死で忘れてたよ…)
2011.07.15
仏誕。
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