これの続編
時の流れというのは早いもので、気がつけばとっくの昔に春は過ぎて夏の真っ盛りになってしまっていた。
学園祭で騒がしい校舎内からドア１つ開けただけで打って変わったように静かになるいつもの場所で、のんびりと遠くの喧騒に耳を傾ける。退屈だ。とてつもなく。
その辺を歩けば他校生に話しかけられるし、先ほどは運悪くクラスメイトにも会ってしまった。高校最後の学祭くらい真面目に出ておけばよかったかな、そんなことも思ったけれど、もう当日の昼時になっている。遅いにも程があるだろう。
小さな窓から青空を見上げながら、近くの自動販売機で買ったばかりのミルクティーを喉に流し入れた。さすが、自販と親しみやすいように略されるだけあって冷たくて美味しい。
「やあなまえ！君はまたサボりかい？」
懲りないね。
右手にハンバーガー、左腕にはバーガーの入った袋、という見ただけでお腹がいっぱいになりそうな格好をしてやってきた彼から自然な流れでハンバーガーを受け取り、もふもふと頬張ってみる。いつもと少し違う味だ。誰が考案したのか知らないが、なかなかに美味しい。
「ん、おいしい。カロリー高そうだけど」
「そう言うと思って、菊に協力してもらって低カロリーなハンバーガーを作ったんだぞ！」
やれハンバーグには豆腐を入れてみただのそれに合わせてソースも少し味を変えてみただのと得意気に話す彼を盗み見ると、ちょうどまた新しく包み紙を開けているところで。
低カロリーとはいえ、そんなに食べたら太るって…。
内心そう思ったけれど、いつもの量で１つ１つのカロリーが低くなっているのならダイエットにもなるかもしれない、なんとなくそんな気もして声には出さないでおこうと思う。ここでしょんぼりさせるのもあれだし。
「そういえば、生徒会って見回りなかったっけ」
「ああ、それなら終わったよ！さくっと終わらせてなまえに会いに行こうって昨日から計画しててさ！」
「…ふうん」
せっかく世間話まで持ち込んだというのに、いつも通りの恥ずかしい返答が返ってきて。適当に相槌を打ってミルクティーを啜った。さっきと違って全然味が感じられない。
それもこれも、多分すぐそこで低カロリーハンバーガーを口いっぱいに入れている彼が原因なのだ。夏に入る少し前に傘に入れてもらい、更に親切なことに家に送ってもらって以来、なんだか意識してしまって落ち着かない。
「なまえ」
「…なに」
「好きだよ」
優しい、明らかに今までとは違う甘い響きを伴ったそれに、ばくばくと心臓が鳴る。これは…まさか、私。
頭の中に浮かんだ考えを打ち消すかのように勢いよく立ち上がって屋上に出る。
後ろから、どうしたんだい、という声が聞こえるけど、それに答える余裕なんてなくて。壁を背にずるずるとしゃがみ込む。
「嘘だ…」
信じられない。だって、この私が、恋、なんて。
この顔の熱が、ただの夏の暑さによるものだと信じながら、狼狽える彼の声をBGMに私の最後の学校祭は終わりを告げようとしていた。
─暑い、あつい─
(ごめんよなまえ、気を悪くしたなら謝るよ…！)
(別に、怒ってたわけじゃないし)
2011.06.20
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