相手の蹴りをかわして、勢いよく壁の辺りまで転がる。いつか見たドラマの主人公のように口元をゆがめて、もうだめかなあ、と呟いた私の頭上で、いかにも悪そうな顔をした男が笑った。笑い声が傷に響く。
「助けなんてこなかったな、」
顔を掴まれ、上を向かされる。何が悲しくてこんなときに男の顔をじっくりみなければいけないんだ、どこかずれたことを考えながら、反撃のチャンスを窺う。 ここで誰かが助けに来てくれたりしたら、ヒーローみたいでかっこいいのに。
「おい、その女に汚ねえ手で触ってんじゃねえぞ」 「噂をすれば…王子様のお出ましだ」
下品な笑い声を響かせながら振り返った男が一瞬身体の動きを止めた。面白いほどに隙だらけの相手の膝に鉄パイプをお見舞いして、次はこちらが立ち上がる。 あの手ごたえだと、膝の皿でも割れたのだろうか。痛みで声も出せないでいる男の背中を蹴り転がし、急いで駆けつけてくれたらしい彼を手招きする。
「なんだよ、お前一人で大丈夫なんじゃん」 「これのどこが大丈夫なのさ…むしろ大ピンチだったわ、さっきまで。来てくれてありがと、ギルちゃん」
とりあえず、こいつ適当に口止めしてくれる? 呆けていた周りに指示をして、彼に寄りかかる。本当に、あれより遅く来ていたらやられていたかもしれない。 感謝をこめて頭を撫でながら、周囲がかもし出す微妙な空気の正体に気づく。なんというか、とても、いいにくいことだった。
─口が裂けても言えない─
(あのさ、すっごく言いにくいんだけど) (んあ?) (肩に鳥のフンついてるよ) (…………)
2011.06.04
現代パロっぽい。頑張ってるけどきまらない不憫な彼が大好きです。
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