退屈すぎて溶けそう。 ちくちくと刺繍針を動かし続ける彼に向かってそう言うと、じゃあ溶けろよばか、と優しくも何ともない返答が返ってきた。細かい作業のときにだけかける眼鏡から、ちらりと目だけを向ける仕草が妙に色っぽい。
「エロ眉毛ー」 「そうか今日は声が枯れるくらい激しいのがいいんだな覚悟しとけよ」 「キャーヤられるーまゆげー」 「ってぇ!!何で今眉毛抜いたんだよ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎながらも、しっかりと仕上げをしてハンカチを畳む彼が、何だか紳士的に見える(さっきまであんな会話をしていたなんて信じられないくらいだ)。 きっちりと畳まれたハンカチの端の方に刺繍が見えた。うさぎだ。
「ありがとー、かわいい」 「お前…その歳でうさぎって恥ずかしくないのか?」
呆れたような響きに、今できる限りのきょとんとした顔を返す。と、眉をひそめられた。 もしかして、自分で言っておいて忘れたのかこの男は。 若干ショックを受けながら、彼の手からハンカチを取って口付ける。
「アートはうさぎに似てるから、いつも刺繍うさぎにしてもらってんの」
わかる? 嫌味ったらしく言って、もう一度ハンカチの中の愛しいそれに口付ける。 頬が熱いし、何よりこの無言の時間が気まずすぎる。いっそのこと消えたいくらいだ。
「…なまえ」 「………」 「…本体、いるじゃねえか」 「えっ」
―眉毛にキッス!― 視線を泳がせながら彼のシンボルマークにキスをしたら、何やってんだばか!と大声で罵られた。
(俺の本体は眉毛じゃねえよ!!) (嘘…そんなの嘘よ!)
2011.04.29
むしゃくしゃしてやった
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