「菊さんっ!」
何してるのですか! 拙い敬語が頭上から聞こえてきて、ちらりと見上げると真っ赤に染まった彼女がこちらを向いていました。 まあ、内腿を撫でられているのだから、そのようになるのは仕方がないことではありますが。 これには理由があるのです。 微笑んで頭を撫でると、いくぶんか安心したかのように体の力を抜いてくれ、小さく、尋ねてきます。
「何か、あったのですか?」
小さな声が耳を擽ります。 こくりと首を傾げる仕草はまだ幼さが残っていて、私が色々なものを奪ってしまった頃からほとんど変わっていないというのに。 私は、まだ彼女から様々なものを奪おうとしている。 その事実が胸に深く突き刺さり、言葉が出せなくなってしまって。
「菊さん菊さん、」
あたしは大丈夫ですよ。貴方が望むなら、大丈夫。 だからね、泣かないでください。菊さんが泣いたらあたしも悲しいですから。 そちらの方がずっと泣きたいだろうに、そっと頭を撫でてくれた彼女は、これだと逆ですね、と優しく笑ってくれました。 それだけで、私は。
「ありがとうございます、なまえ」
─救われた、と言えばいいのでしょうか─
(アルフレッド君が来るのは来週ですね?) (あたしはそれまでに、彼好みにならなければなりませんね) (菊さん?どうしてそんなに悲しそうなのですか?)
2010.02.01 北海道。
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