コンコン、と目の前の部屋の扉をノックする。 勿論、返事は返ってこない。 最近は、俺が置いた飯すら食べていないようだ。
「なまえ、」
風邪をひいていないか。 きちんと寝ているか。 訊きたいことはたくさんあるのに、言葉に詰まってしまう。
「………っ、」
いくら相手に想いを寄せていても、扉が、周りが邪魔をする。 知った者の手によって引き裂かれた互いの距離。 そして、会えないようにと築かれた壁が、忌々しい。
「く…っ、」
あいつが気に入られたから、一緒に連れて行かれた。 兄さんも、あいつも、気に入られたから。
「開けろ…ッ!」
ただ、ひたすらに扉を叩く。 きっとこちらの声が聞こえる状態じゃないだろうし、こんな頑丈な扉が開くはずもない。
それでも、逢いたくて。
「ルッ、ツ…?」
小さな声が扉越しに聞こえて、力なく戸が叩かれる。 そして、ジャラ、と重い鎖の音。
「なまえ!」 「…ルッツ、は、」
逃げて。 声音でわかる。 彼女は今、涙を堪えて微笑んでいるのだろう。 悲しくて、何もできないことがもどかしくて、それでも。 弱音を吐かない、そんな彼女が大切だと、伝えたかったのに。 一生に一度の愛の言葉は、銃声にかき消された。
─愛して"た"─
(それから幾年も経って、壁は壊されたけれど、) (俺の心は一向に晴れないままだ。)
2010.02.01
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