愛してよ






「アーサー…」

泊めて。
ドーヴァーの向こう側からやって来た可愛い妹分は、俺の家のチャイムを鳴らしまくった後、泣き出しそうな顔でそう言った。
こいつが俺の家に来るときの理由は大体同じで、いつもはすぐにこいつの兄(俺の宿敵でもあるフランス男)が迎えに来るはずなのだが。
どうやら今日は違うらしい。

「仕方ねぇな、」
「…嫌」

電話に伸ばしかけた手を阻まれる。
いつもならこの辺りでフランシスが家のチャイムを鳴らすはずなのに、おかしい。

「なぁなまえ」
「知ら、ない」

フランシスなんて、お兄ちゃんなんて嫌い。
俺の腕に触れる手がかたかたと震えていて。
いつもより激しい喧嘩であったことがよくわかる。

「どうしたんだよ」

お前ら兄妹が珍しい。
顔を覗き込むと、彼女が突然顔を上げた。

「…て、だって、」

お兄ちゃ、が、アートを選ぶ、な、て、趣味悪い、って…!
ぐずぐずと泣き出した彼女の背中を擦りながら思い返す。
つまりこいつは俺のことで喧嘩をして、ここに来たわけで。

「ヨーロ、パでも、他にいい、男いる、からって言われ、て、それで、」

ぼろぼろと涙を溢す彼女が落ち着いてから、一度言ってやろうと深呼吸する。




─愛してよ─
言われなくても愛してるに決まってんだろ。

(アート、成功した?)
(お前、いつ見てたんだよ!)
(お兄さんの可愛い妹なんだから、傷つけないでよ)
(当然だ、ばぁか)



2009.11.19
ヒロインのセリフの最初の文字に注目。


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