全てのキスを貴方からしてくれるなら






チリン、
硬いベルの音がいつもの来客を知らせてくる。
最近、よくここに来る黒髪の少女を思い浮かべながら玄関に向かった、そんな僕の目の前で。

「わ…っ」

足元を確認できないくらいに物を持った彼女が、段差を跨げずにつまづく。
転ぶ瞬間に助ける暇などなく撒き散らされたそれは、毎年持って来てくれていたそれ。

「ひまわり…?」
「はい、今年も綺麗に咲いたので」

持って来ちゃいました。
にこ、とはにかむように笑う彼女は、唯一握りしめていた一輪をこちらに差し出して。
それを受けとる手が、震えていたのが自分でもわかった。

「…あり、がとう」
「え、」

どうしたんですか。
間の抜けた声が腕の中から聞こえて。
自分自身に苦笑してしまう。
だって、こんなドジで素直すぎる彼女が愛しいだなんて。
馬鹿みたいな話だ、とさえも思う。

「君、僕のうちにおいでよ」

腕の中で真っ赤になって固まっている彼女に誘いかけると、意外な返事が返ってきた。




─全てのキスを貴方からしてくれるなら─


(そんなことでいいの?)
(だって私、挨拶でもキスなんて自分からできませんから!)



2009.11.16 修正



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