状態は右下がり






はぁ、
悴んで感覚が無くなってしまった手を暖めながら、自分のよりも小さな足跡を辿っていく。
彼女の脱走癖も困ったもので、今日で何度目だろうか。
どうしていなくなるかはわかるし、いるところも大体わかる。
でも、あんな場所に長い時間いるだなんて。

「なまえも変わってるね」
「イヴァン…」

涙に濡れた跡がある頬は、寒さで真っ赤に色づいていて。
もう冷たいということさえ忘れたように、手は雪を握りしめている。

「帰ろうよ、」
「でもっ…!でもね、」

身体が、動かないの。
そう言って見上げてくる彼女を引き上げて抱き締めると、わんわんと子供のように泣き出してしまって。
ぎゅ、と腕に力を込める。

「怖、いよ…っ」

怖い、
ただそれだけしか言わない彼女が咳き込んで。
赤い霧がかかったように雪が染まった。

「っけほ、」
「なまえ、帰るよ」

寒いところに長時間いたせいで、身体が冷えきってしまったのだろう。
急いで抱えた彼女は、数日前よりも軽く感じた。




─状態は右下がり─


(イヴァンさん、どうしたんです?)
(ねえ、君の家の医療で、この子を治せるかな)
(そうですね…こちらも努力してみます)
(ありがとう、菊くん)



2009.11.16 修正

病気設定。



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