無理に決まってる





コンコン、
分厚い扉をノックをしても返ってこない返事に、ドアノブを回す。

「イヴァン?」

お仕事終わったの?
机に向かっている彼に話しかけてみても返事はなくて。
代わりに、すやすやと安らかな寝息が返ってきた。

「風邪ひくよ、」

ソファにあった膝掛けをかけるも、寝ているらしい彼は身動ぎをする程度で。
珍しい光景に頬が緩む。

「キス、したいなぁ…」

今ならバレないかな。
妙に高鳴る胸を押さえて、眠る彼に唇を寄せた、のだけれど。
あと一歩のところで勇気が出なくて、まごまごしてしまう。

「…イヴァンからじゃないと、できないや」
「どうして?」
「え、」

どうして、いつから、
言いたいことはたくさんあったけれど、それらが言葉になるよりも前に。
唇が柔らかいもので塞がれる。

「ん…っ、」

呼吸をする暇もない口づけに相手の胸元を押そうとしたら、見事に腕を掴まれて。
息が、続かない。

「……っイヴァン!」
「そんなんじゃ駄目だよ」

僕の恋人なら、これくらい耐えられなきゃ。
にっこりと素敵な笑顔を向けられて、納得しそうになったけれど。

「どう考えたってそれは、」




─無理に決まってる─


(練習すれば大丈夫だよ)
(練習?)
(そうだよ、だってキスしたいんでしょ?)
(き、聞いてたの!?)



2009.11.16 修正



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