「菊、久しぶりー!」 「おや、」
なまえさんじゃないですか。 にっこりと笑ってお辞儀をしてくれる姿に、つい見とれてしまう。 柔らかい表情も物腰も変わってなくて、少しだけ安心したのだけれど。
「─でね、そのときにアルが…」 「そうでしたか」
何だか、さっきから菊の様子がおかしい気がする。 ちょっと不機嫌というか、あまり楽しくなさそうで。 きゅう、と胸が締め付けられるようだ。
「菊、退屈…?」 「え、」
そんなことないですよ、 そう言ってくれた菊の笑顔は苦しそうで。 じわじわと視界が滲む。
「っ菊、菊…」 「なまえさんは悪くないですよ」
えぐえぐと子供のように泣く私の頭を撫でる手は、心なしか冷たく感じて。 余計に涙が溢れてしまう。
「仕方ないですね、」
突然抱き寄せられて、私の目尻に唇が触れる。 温かいそれに涙が舐めとらる感覚に瞼に力を込めると、くすくすと笑う声が聞こえたから。 そっと目を開く、と。
「しょっぱいですね」
ほら、 なんて言いながらの口づけに頭が真っ白になって、それで。 気がついたときには、困ったような表情の菊に介抱されていた。
─久しぶりだったから─
(我慢できなくてですね、) (でも、菊怒ってたのに) (あー…それは…) (それは…?) (妬いて、ました)
2009.11.16
|