この学園に、国でも人でもない奴がいるらしい。 生徒会室で、深刻そうなトーンで告げられたことを反芻しながら書類を運ぶ。俺にはそういった類いのものが全く見えないため流してきたが、よく考えてみると不思議な話だ。あの妖精さん妖精さんうるさい眉毛が、あんなに警戒しているだなんて。更に、某眉毛が言うには、それは男女関係なく性的な行為をするのだという。
「まあ、そんなのいるわけないでしょ」
よいしょっと。 書類を抱えたまま鍵を開ける。今は使われていない図書館らしく、扉を開くと古い紙のにおいがした。 置場所の指定はされていないのだから、その辺に適当に置いて帰ってしまってもいいのではないかと書類を置いた俺の視界に、何か白いものが映った気がした。背筋を嫌な寒気が襲う。
「……まさか、な」
恐る恐る白いものが見えた方向に視線を向ける。すらりとした脚が見えた。女、だろうか。
「ねえ」 「っ!!?」 「そんなにびくびくしないでよ」
別に幽霊ってわけじゃないんだから。 カウンターの上にいた女が、いつの間にか目の前で笑っている。 この感覚は国じゃないし、人間でもない。なら、こいつは何だっていうんだ。 警戒の色を強める俺の腕を掴み、女が目を細めた。どろりと情欲を掻き立てるような、紅い瞳。
「わからないの?」
あなたの家にもいたんだけどなあ。 腕を放して、女がくるりくるりと回る。お世辞にもしっかり着ているとはいえなかった衣服が上質で薄い衣に変わり、身につけていたアクセサリーも大分豪華な装飾となって。少し髪が長くなった程度の中身の女が、もう一度くるりと回った。 どう、これなら見たことあるでしょう?
「…フレイヤ」 「正解。でもここではその名を名乗ってないの」
ごめんね、ボヌフォアくん? これからよろしく、と付け足されて頬に口づけられて。呆然とする俺をよそに、彼女は颯爽とした足取りで古ぼけた図書館を出ていった。
─出会いの確率─
(なんで、女神が、ここに)
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